コーヒーでも呑んで考えたいな
横断歩道を挟んで信号機が見える場所。どうしてそこにいるのか、ここまでのなりゆきは、もう覚えていない。
まわりに人がいるわさわさとした気配はあって、でも、だれがいるのかよくわからない。
信号はいつまでも赤。もう渡るのは諦めてどこか別の場所へ向かってもいいはずなのだけれど、どうにも渡らなければならないのだという、何だか義務感みたいな重くのしかかる気分があって、その場を動けずにいる。
あぁ、また夢を見ているのだな、と思いつつ、目醒めるに至らない。
目の前の車道の右手のほうから、粘度の高い透明な合成洗濯糊みたいなどろりとしたものが流れてくる。
――はじまったんだね」
だれに対してなのかよくわからないのだけれど、たぶんだれに向けてなのかかなり意識していたんぢゃないかな、そういう科白が口をついて出てくる。だれに返事をしてもらったというわけでもないのに、あぁ、わかってくれたか、といった安堵の気持ちが湧いてくる。景色全体から、ごぉぉという低い響きがあがってきて、あぁ本当に***は始まったのだなと考えている。
どろりとした流れは、もう目の前に達しており、たとえ信号が青に変わってももう道は渡れないだろうな。流れに目を凝らしてみると、そこには無数の小さな活字、紙に印刷されたそれではなくて、明朝体の文字そのものがゆっくり回転しながら巻き込まれている。
さて、どうやってこの道を渡ったものか。コーヒーでも呑んで考えたいな。お湯を沸かさなくっちゃと考えたところで目が醒めた。
この夢の終わり方は、生まれて初めてのもの。明晰夢としては中途半端な感じだしなぁ。というわけで、メモっておくべし。しかし、「***」って何だったっけ? 何かエラク重要なことだったと思う。ま、夢の中の重要事項なんぞ、目が醒めてから気にしてもしょうがないんだけれど。けれど、けれど。