寅次郎の実力

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京成線押上近く、京成橋欄干のステンドグラス

 写実性なんてこれっぽちもない絵だし何の説明も付されていないのだけれど、ここに描かれている人物が何者であるのか、ほぼ間違いなく自分はわかっていると確信できてしまう。どういうことだろね?

 

 寅さんモノは、大学一年だか二年だかのとき某駅前の今は亡き某名画座で『三代目襲名』と共に見たのが映画館で見た唯一。でも、中身はおろか相手役の女優さんさえ記憶していない。『襲名』のほうはいくつかの場面が今でも鮮明に思い起こせるのに。寅さんのほうはといえば、テレビでも何度か目にしたはずだけれど、ストーリーがまとまった形で思い起こせるものは何の気取りでアレするのでもなく、率直に一作もない。

 そういう人間であっても上のステンドグラスを見ればたちどころに渥美 清演じるところの車 寅次郎であると確信できてしまう。たぶん、そういうふうに見てしまうヒトは僕だけではないんぢゃないか。映画の中、ステンドグラスに描かれたスタイルで現れる場面がどれくらいあったのか。帽子まで揃っている時間など、実はさほど長くないのではないか。というか、たぶん映画のほうをまったく見たことがなくてもステンドグラスの人物がだれであるかがわかるというヒトは案外多いのではないか。

 そこいらへんが寅さん人気の力というべきものなのだ、というところにお話は落ち着くのかもしれない。

 

 しかしなぁ、映画という映像ゲージツにおいて、こういうアイコンが作品とは縁のない形で世間様に堂々と流通してしまうのだから、作品とは縁のない紋切り型の言葉・評言が流通してしまうというのは、まったくもって防ぎようのないことなんだろうなぁ。

 

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