本日のSongs/Simon & Garfunkel 'Wednesday Morning, 3 AM' turns 50yrに寄せて与太をひとつばかり

 昨日*12014年10月19日は、Simon and Garfunkelのデビューアルバムである『Wednesday Morning 3 A.M.』発売50周年という記念すべき日なのだった。1964年10月19日は、では水曜日だったのかというとそんなことはなくて月曜日だったりするのだが、それはさしあたり大きな問題ではない。

 『水曜の朝午前3時』*2そのものは、一年で3000枚ほどしか売れず、サイモンとガーファンクルは実質解散状態になる。ところが、アルバム収録曲「サウンド・オブ・サイレンス」に、プロデューサのTom Wilson hatena bookmark*3が勝手に如何にもロックな伴奏を後から追加録音して大ヒット曲になった。そのへんはすでに知っているヒトは知っているお話。ここいらへんを改めて書くのは面倒臭いのでウィキpの解説を引いておく。

Wilson produced Simon & Garfunkel's 1964 debut LP Wednesday Morning, 3 A.M. which included "The Sounds of Silence". Seizing on local radio interest in the song in Florida and inspired by the huge success of The Byrds' folk-rock version of Dylan's "Mr Tambourine Man", Wilson took the duo's original acoustic track and, without Simon or Garfunkel's knowledge, overdubbed electric instruments, turning the track into a #1 pop hit, helping to launch the folk-rock genre. Simon and Garfunkel, who had already split, re-united after the hit and went on to greater success.

Tom Wilson (record producer) - Wikipedia hatena bookmark

というわけで、『水曜の朝』は下手をするとデビューアルバムにしてラストアルバム、サイモンとガーファンクルも、アマタいた有象無象のひと組として消え去るはずだったということになる。とはいえ、これがあってこそのサイモンとガーファンクルであったわけで、不思議な運命がどうたらこうたらというような話にもなる。

 ただアルバムはさておき、オリジナル版「サウンド・オブ・サイレンス」を落ち着いて聴き直してみるとき、元々この歌はロックのビートを要求していたのだとも聴こえる。トム・ウィルソンのアイディアは恣意的なものでもなければ、流行に乗ってみたというだけのものでもなく、プロデューサとして虚心坦懐に作品に耳を傾けていたからこそのものという気がして来ることがある。

 これが『水曜の朝午前3時』に収録された「サウンズ・オブ・サイレンス(The Sounds Of Silence)」*4

 こちらが『Sounds Of Silence(サウンズ・オブ・サイレンス)』*5収録の「サウンド・オブ・サイレンス」。

 今なら「フォークロック・リミックス」とかなんとかテケトーなことをいってディジタルな作業でホイホイ作り変えられちゃうのかもしれない。けれど、この「サウンド・オブ・サイレンス」の場合、オヴァーダビングするにしたって普通ならリズム隊を先に録音してそれに合わせて残りを録るというのが通常の順序のところ、当時のアナログな技術でリズム隊を後から追加するなんちゅうなかなかの荒業で仕上げられている。おかげで、なのかどうか、とにかく実際のところ、エレキ版「サウンド・オブ・サイレンス」のリズムは不揃いだったり、のたくさしちゃったりして耳に障るところがちょこちょこある。

 とはいえ、「サウンド・オブ・サイレンス」のメロディ、当時のフォークロックと称される歌の中では際立ってロックのリズムである8ビートにきれいにハマってるってことは動かない。そこいらへんを考えると、「サウンド・オブ・サイレンス」大ヒットにまつわる上のお話、単純に僥倖による大ヒットみたようなアレで考えてしまうのは、「サウンド・オブ・サイレンス」という作品そのものに対してはずいぶん失礼な話ではないかなと思うのだ。

 そのへん、もちっとだけていねいに説明してみよう。

 小学校で習う4拍子は「強・弱・中強・弱」の4分音符の並びになる。8ビートはこれを8分音符に細かくしたもの、であるだけではなくて、「強・弱・中強・弱」のアクセントをひっくり返した「バック・ビート」とか「アフター・ビート」とか呼ばれるものになる。とか何とか言葉で書くと面倒臭いので譜例を示す。

20141019121610

8ビートのドラム譜例*6

 と譜面を示してもやっぱ説明加えないとダメかなぁ(^_^;)。譜面の8分音符の✘が並んでいる中の3つ目と7つ目だけが通常のオタマジャクシがにょろっと顔を出してるでしょ? そこんところにアクセントが置かれることになる。エレキ版「サウンド・オブ・サイレンス」のドラムも概ね上の譜例を基本としたパタン。こいつを頭に置いて聴いてみればリズムの特徴は問題なくご理解いただけると思う。ここを普通の4拍子の「強・弱・中強・弱」にすると由紀さおり「夜明けのスキャット」(1969年)になってしまうのだ*7。したがって、このへんは歌のアイデンティティに関わる重要なところだといわなければならない。

 このリズムをちゃんと踏まえたメロディ作りが行われている歌って、実は案外少ないのだ。ドラムは8ビートなのに、歌は「強・弱・中強・弱」になっているのが通例といってもいいくらい。たとえば、耳にしやすいところではユーミンなんかのはたいがいそうでしょ? 伴奏のアレンジはリズムもコードも洒落ているかもしれないけれど、歌が加わると全体としては何となく垢抜けなさが残る感じ。たぶん、そういう垢抜けなさも人気の要因になってるんだろうけれど。っとそれはさておき。

 「サウンド・オブ・サイレンス」のメロディーは、このへん当時のフォークロック作品の中ではかなり律儀に8ビートのアクセントを踏まえた作りになっている。冒頭4分休符の後のアクセントのあるところから、"Hello, darkness my old friend"/ddffaagぃ〜♪と続く……とか書いたってわかんないっすよねぇ。うーん。

 というわけで、「サウンド・オブ・サイレンス」メロディ冒頭を譜例で示す。

20141020032159

 なんだか五線譜に見えないような気がするかもしれないが、余計な横線はきっと幻覚か何かなので気にしないこと*8。譜面を書くなんざぁ6500万年ぶりだしメロディは記憶に頼っているしで、記譜のルール破りやメロディに少々間違って書いちゃってるところもあるかもしれないがソイツも許すべし。というあたりはまぁどうでもよろしいとして、要は歌の頭が8ビートのアクセントにあることがわかっていただけるかしら。こういうの、冒頭に限らず割と律儀に歌ほぼ全体で守られる形になってる。

 アクセントばかりではなくて、冒頭のメロディーの音の選択、Dmの音をただ愚直に刻んだだけというとアレだけれど、これに加えてコーラスがさらに《ddddddc》と同音の繰り返しを中心としたものになっていて、歌の力強さを生み出している。これもロックのビートにふさわしいものではないだろうか。

 こういうところ、作品が8ビートのロックを要請する形を持つものだったと考えていいんぢゃないか。エレキなギターとリズム隊の追加は、仮に当時のポールにとって不本意なものであったとしても、歌そのものには、ヒットしたかどうか以前のこととしてだって悪くない出来事だったんぢゃないかなぁ。ここは、さすが辣腕プロデューサのトム・ウィルソン、とトムくんをちゃんと評価してあげなきゃいけないところだと思う。

 とまぁそんなこんなで、えーと、「サウンド・オブ・サイレンス」がフォークロックとしてリミックスされたのは、とにかく流行に合わせてやっつけちゃえというようなものではなく、ただただ偶然と幸運が生み出した大ヒットというのでもなく、歌がもともと持っていた性格が適切に生かされたもの、生かされた結果なんだと考えるべきなんぢゃないか。

 

おまけ

 トムくんについての紹介ヴィデオ。英語がわかんなくても、大したプロデューサさんだったことは充分わかるんぢゃないかしら。

 

Wednesday Morning 3am

Wednesday Morning 3am

  • アーティスト:Simon & Garfunkel
  • 出版社/メーカー: Sbme Special Mkts.
  • 発売日: 2008/04/29
  • メディア: CD
 

かつては売れなかったとはいえ、ちゃんとしたアルバムなので、ボーナストラックなど収録されていないヤツで、まずは耳にすべき。

SOUNDS OF SILENCE

SOUNDS OF SILENCE

  • アーティスト:SIMON & GARFUNKEL
  • 出版社/メーカー: SONY
  • 発売日: 2001/09/03
  • メディア: CD
 

 こっちはさほど全体のまとまりに気を配らなくても聴ける感じ。ボーナストラックもついでに聞いたからといってバチは当たらなさそう。

 

*1: のたくさ書いているうちに日付が変わってしまった…(;´Д`)ウウッ…。

*2: 英語で書くのはやっぱ面倒臭い。

*3: リンク先はファンサイト、なのかな。

*4: 上に引用したYouTube音源のタイトルでは「The Sound Of Silence」となっているが、『水曜の朝午前3時』収録ヴァージョンのタイトルでは「Sounds」と複数形表記になっている。最近のCD紹介記事などでは単数形表記になっているものもあるけれど、複数形表記が本来なんぢゃないのかな。

*5: 普通はアルバム名も『サウンド・オブ・サイレンス』と日本語表記されるけれど、英語のアルバム名は『Sounds of Silence』になっている。こちらのアルバム収録の歌では「The Sound of Silence」

*6: 「ドラム・ビート」(Wikipedia) hatena bookmarkより拝借。

*7: 作曲は、いずみたく。ご存知ない方は、YouTubeで検索なさるとよろしい。伴奏のアルペジオのパタンも含めて「サウンド・オブ・サイレンス」の強力な影響下にあることは疑いを容れないだろうけれど、由紀さおりの歌唱のおかげなのか、これはこれとしてチャーミングな歌になっていると思うなぁ。

*8: 五線譜をサクサク書くようなタマではないので用紙は常備してない。これはギターのタブ譜用紙に書いたものなので横線が1本多くなっちゃってる。悪しからず。cf. 「タブラチュア」(Wikipedia) hatena bookmark