本日の埋草/消しゴム価格の教育論

 立て続けに他人様ヒトサマふんどしで失礼つかまつっちゃいます。

 まずどなたもが気づくのが、最初の問い。通常の足し算引き算の出題としては不適切と見られるものかもしれない。

 関係ないような話だし、実は出処も真偽も知らないのだが、かつて東京帝国大学文学部仏文学科の試験で「象徴主義とは何ぞ哉」という出題がなされた際、小林秀雄は「かかる愚問答うるに能はず」と答えて最も優秀な成績を修めたという話を耳にしたことがある。ありそうでもありなさそうでもある伝説ということなのだろうけれど、あると愉しいだろうね、と思わせるところが小林秀雄のエラいところなんだろう。

 別にその伝で行くなら、というわけでもないんだけれど、解答欄のありようにしたがって自分なりに答案を埋めるなら、「式 消しゴム価格を求める式は成立しない」「答え 出題条件からは不定」でいいんぢゃないかと思う。記述解が求められるなら、「与えられた条件では、消しゴムの価格は導出できない」が正解ってことでいいんぢゃないか。

 学習において重要なことは、学習したことで解決出来る問題が増えるということではあるだろう。しかし、その際、学習したことで何でも解決出来るわけではないと知ることも決して蔑ろに出来ない重要なものだ。したがって、上に記した解答例は別段奇を衒ったものでも頓智を利かせたものでもない、わかり得ないものはわかり得ないと答えるのが正しいという事実に即した至って真面目に考えたうえでの正解であると云わなければならない。

 そういうことを考え、またこのツイートに対する反応を見てみると*1、こういう出題もあながち不適切だとは云えず、かえって私たちが教育において忘れがちだが重要なところを思い起こさせてくれさえする良問であると云い募る余地は充分にあるんぢゃないか。

 

 さらに下の問題。

 これが真に現実的な場面を想定した応用問題であると考えるならば、設問に見られる「あんぱん」と「あんパン」という表記の異なりは見落とせないポイントになる。現実的な店頭を想起した場合、これらは商品名の異なりに対応している可能性があるからである。

 Y製パンの「あんぱん」がどこかの「サンドイッチ」より10円高いからといって、M製菓の(別に同メーカーであっても構わないが)、より品質の高い最高級品であるかもしれない「あんパン」が同じように10円だけ高いという保証はないのである*2。つまり、「あんぱん」がサンドイッチよりも10円高いからといって、価格を確認せず同じ価格分の小銭しか用意せずに「あんパン」を手にしてレジに向かうようでは、勘定で赤っ恥をかくことになるダメな消費者さんだと云われても仕方がない。きちんと価格を確認し、場合によっては、原材料や賞味期限・消費期限をも確認し、両製品を比較検討の上で購入するのが賢い消費者なのである。

 したがって、ここでの正解もまた「式 出題条件からは適切な式は導出できない」「答え 出題条件からは導出できない」ということにならなければならない。

 足し算引き算を習ったとしても解決出来ない問題は、この世界にはいくらでもある。足し算引き算を知らなかったときよりも格段に問題解決能力が向上したとはいえ、それがユニバーサル・ソルバーとはならない。ソルバーとして使える場面なのか使えない場面なのかを正しく判断できることは、現実問題に対処する折欠かせない能力であろう。そういうことを教えないから「算数・数学なんぞ社会に出てからは役立たない」などという世迷言がいつまでも絶えないのだ。

 そこいらへんを思い知るためには、この第2問は優れた問題であるとまでは云わないにしても、充分にあり得る問題なのであって、決して安易に誤字誤植の類、出題の不適切と極め付けてはならないのである。

 

 このように、抽象的な計算ドリルではなくより現実的な場面に即して学習事項が正しく使えるかどうかをチェックする応用問題としては、ツイート中の2問はいずれも間違った問題だとはいえず、むしろこうした問題が不適切であると考えてしまうところに、今日の私たちの教育問題に対する盲点があるのだと云わなければならないのかもしれないのである。

 

 書いているうちに冗談で書いているのか真面目に書いているのか、自分でもわからなくなっちゃったぞ\(^o^)/

 

補遺、ホイホイ

machida77さんから以下のようなブクマコメントを賜った。

別冊 日々の与太 » 本日の埋草/消しゴム価格の教育論

私の知る限りでは2014年から広まった問題の画像http://www.huffingtonpost.jp/2015/01/07/math-test_n_6433902.html。恐らく画像になっていない設問に必要な情報があるはず。

2016/02/21 16:16
*3

 たしかにリンク先で紹介されているツイート、

を見てみると、問題画像はまず間違いなく同一のものとわかる。Google Images Searchでググると、オリジナルのツイートが15年はじめ頃にまとめサイトなどで取り上げられ、散発的に拡散していたのではないかとの見当がつく。エントリを書く前に確認しておくべきだった手順をすっかり忘れていた点、要反省だなぁ。うーん。

 また、ツイートに続くレスのやり取りを確認してみると、「@rarirurerooooon 学校の先生が作った宿題のプリントです^ ^」という発言が見当たる。市販の問題集からのものではなかったわけだ。これはとくに本エントリに関わるアレではないけれど、学校の先生の多忙を思うと、問題となっている問題は、やっぱりうっかりミスである可能性を排除出来ないのかもなぁ、という気になって来る。

 たしかに設問に付された丸数字による「➀」、「➁」は、大問に対する枝問であることを感じさせるものであり、その点を考えれば大問のほうにけしゴムの価格を考えさせる条件の登場可能性は排除できない。したがって、machida77さんがおっしゃるように《恐らく画像になっていない設問に必要な情報がある》とも想像できる。

 しかし一方で、「あんぱん」と「あんパン」の表記使い分けについても同じように想像することは難しいように思える。もちろん、そこいらへんは僕が常識と思うぼんやりしたものに阿っての想像であって、《※ 個人の感想です》の域を出る判断ぢゃないけれど。そういうとこいらへんをツラツラ個人の感想的想像をめぐらせていると、「けしゴム」についても大問に果たして充分な説明があるかどうか微妙なんぢゃないかという気がしてくる。

 大問は枝問の大前提となる条件を提示するものだ。枝問に共通する前提とはどんなものだろうか。問題に登場する商品を考えると、たとえば

問題 あなたは今、買い物のお手伝いでコンビニエンスストアまでやって来ました。困ったことにいくつかの商品には値札がありません。値段を尋ねたところ、意地悪な店員さんからは以下の問いのような答えが返って来ました。厭な店員さんですね。でもムカついても仕方ありません。自分で考えるより対処のしようはなさそうです。というわけで、それぞれの商品が一体いくらするのかを考えてください。答える際にはどうしてその値段だとわかるのか計算式も書いてくださいね。

とか何とかいったようなものになるのではないだろうか。3桁までの足し算引き算が想定されている問題だから、たぶんこれは小学校低学年に向けた問題なのだと思う。そうなると、さほど複雑な関係の理解を前提にした作問はなされないのではないか。少なくとも一部の特殊な名門校ではない一般的な小学校を考えた場合はそんなもんぢゃないかと、個人の感想的には想像される。枝問を解くに当たってイチイチ大問に語られる条件を参照しなければならないというのは、小学生1年なり2年なりには面倒臭さの度が過ぎるということはないだろうか。このへんは、堪え性のなさと無精にかけては小学生に負けない自信のある僕が考えることなのだから、かなり正しい推理になっているんぢゃないかという気がしちゃうなぁ\(^o^)/。

 

 Kindle版も出ている。

*1: 冒頭引用されているツイート中に表示されるURLをクリックすると当該ツイートのオリジナルページにたどり着ける。画面を下方にスクロールすると、ツイッターでの反応が確認可能になっている。

*2: さらに云えば、問題において語られる価格が消費税込みなのか本体価格なのかが記されていないことにも、本当は配慮しなければならないのだが、計算が面倒臭いのでそのへんは端折る。

*3:【復旧時註】「別冊 日々の与太」は現在すでにない。