記憶について

 坊さんが経だか何だかを唱えている後ろで、手に数珠をかけながら悪魔祓いもどきの何かをやらかしているおばさんがなんで《SHINTO PRIEST》なんだかわけのわからん神仏習合なヴィデオだけれど、国内報道ではあんまり見聞きする折のない話だけに気になるところ。不幸にして「見えてしまう」という手の話自体は震災と関係なくあちこちに転がっていはする。でも、被災地でそういうのが流行っているとすれば、厭な話だ。

 幽霊といえば、小学生時代に読んでいた『子供の科学』にこんな話が出ていたことがある。《脳は詰まるところ物質である。人間の記憶といったものも物質の働きに過ぎない。脳が記憶出来るとするなら、他の物質が記憶を持っていても何の不思議もない。そして、実は幽霊とは、しかじかの場所の物質に残された死んでいったヒトの記憶を生きているヒトが再生する現象なのだ》とかなんとか。当時の『子供の科学』に、どういうわけだか連載していたオカルト・ライター中岡俊哉*1の記事だったと思う。

 もちろん、今ではそんな話を信じてなどいないのだけれど、FRANCE24の報道を眺めながら、大津波ほどの混乱が地域の物質に残した死んでいったヒトの記憶となると、さぞかし激越で渾沌とした幽霊たちを生み出すのだろう。その姿が「見えてしまう」ヒトの頭痛や肩凝りの類は並々ならぬ酷いものとなるのも仕方がないのかもしれない、と、何だか信じていないはずの話からあらぬことを考えてしまったりする。

 そういう記憶はとっとと消え失せてくれるに越したことはない。とはいえ、記憶一般に関していえば、たいがいの場合、忘れるより覚えておくほうが便利で有益だということに世間相場はなっている。

 

 父親の生没年は記憶に便利に出来ている。1923年に生まれ、2011年に没しているからだ。要するに、関東大震災の年に生まれ、東日本大震災の年に亡くなったというわけで、一度頭に入れさえすれば、何かと人騒がせなキャラクタにぴったりの生没年、めったに忘れない。ものごと、そういう具合になんでもかんでも芋蔓式に覚えていられるように出来上がっていてくれるわけではない。

 だから、他人様ひとさまの記憶をめぐっては、自分のオツムのお馬鹿さ加減は神棚にあげて、そいつぁどうにかしているんぢゃないか、と感じることも出て来る。

 

「Abe says Japan 'cannot do without' nuclear power」(AFP、YouTube) はてなブックマーク - Abe says Japan 'cannot do without' nuclear power - YouTubeを眺めながら、厭な気分になった。ここいらへんについては、原発事故以前にまったく誤った判断と事実に反する答弁を行っていたことの責任も取らずまともな反省の弁もない彼がこう語っていることに、何らの不愉快感も覚えずにいられるヒトたちのお人好しの健忘症加減についても、いい加減、うんざりするしかない。予測は外れることもある。それは譲っていくらか許したとして、事実に反する言葉をうっちゃらかっておいていいということにはならない*2。至って常識的な考え方だろう。でもそうは考えないらしい彼らは一体どういう幻想の記憶の中に生きているのだろうか。幽霊の類以上に非現実的な世界からこの世に指図しているみたいだ。厭味でも何でもなく率直に申し上げて、理解するのはむずかしい。

 

 と、他人様の記憶力の欠如を責めてばかりはいられない。やっぱり多少は自分のオツムの緩み具合にも反省を加えるべきところがあるにはあって、記憶力の問題となると思い当たる節は、それなりにゾロゾロ出て来る。たとえば、「2008年「15m超津波試算」 東電 非公開の内部資料入手」(News i - TBSの動画ニュースサイト) はてなブックマーク - 「2008年「15m超津波試算」 東電 非公開の内部資料入手」 News i - TBSの動画ニュースサイト「【スクープ速報!】『想定外の巨大津波』は実は想定の範囲内だった!震災から5年、東電が『巨大津波』を予測できていた『新証拠』を福島原発告訴団・代理人の海渡雄一弁護士が岩上安身のインタビューで証言!『何度も司法記者クラブで話したが、新聞は記事にしなかった』衝撃の事実をIWJで公開!!」(IWJ Independent Web Journal) はてなブックマーク - IWJ Independent Web Journal » 【スクープ速報!】「想定外の巨大津波」は実は想定の範囲内だった!震災から5年、東電が「巨大津波」を予測できていた「新証拠」を福島原発告訴団・代理人の海渡雄一弁護士が岩上安身のインタビューで証言!「何度も司法記者クラブで話したが、新聞は記事にしなかった」衝撃の事実をIWJで公開!!というような報道に触れて、内部資料そのものはさておき15m超津波試算の話はたしか昨年もあったよな、とは思い出せたのだけれど、いやはや、そういう話だけならば2011年に東電が公表していたことはさっぱり忘れていたこと。昨年も、というのは、「東電『津波対策は不可避』 08年の社内会議で」(朝日新聞デジタル) はてなブックマーク - 東電「津波対策は不可避」 08年の社内会議で:朝日新聞デジタル「『津波対策は不可避』と東京電力は認識していた│小石勝朗「法浪記」」(マガジン9) はてなブックマーク - 「津波対策は不可避」と東京電力は認識していた│小石勝朗「法浪記」 | マガジン9*3その他の記事である。読み返してみると、すでに「津波対策は不可避」であることに触れた内部文書が東電株主訴訟において証拠として提出されたといった旨の話が登場している。なんでそんな話が今さら「スクープ速報」のびっくりマーク付きになるのか。このへんTLに上げようかと思っていた矢先に、

「2008年「15m超津波試算」 東電 非公開の内部資料入手」 News i - TBSの動画ニュースサイト

この文書は2011年に報じられたhttp://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2403D_U1A820C1CR8000/のことではないのか。

2016/03/11 06:13

との machida77さんのブックマークコメントを目にして、あらまっ/(^o^)\……という次第。2011年8月24日の記事、「福島第1原発、10メートル超の津波想定 東電が08年試算」(日本経済新聞) はてなブックマーク - 福島第1原発、10メートル超の津波想定 東電が08年試算  :日本経済新聞には、

 東電は02年の土木学会の津波評価をもとに、福島第1原発での想定津波の高さを最大5.7メートルと設定していた。08年に、869年の貞観地震や国の地震調査研究推進本部の見解などをもとに、巨大地震時の津波の規模を試算。福島第1原発の5~6号機に来る津波が10.2メートル、防波堤南側からの遡上高は15.7メートルという結果をまとめた。

 実際に大震災による福島第1原発の遡上高は14~15メートル。試算に基づいて、電源やポンプなどの重要施設の防水対策をきちんととっていれば、全電源喪失から原子炉を冷却できなくなる事態を防げた可能性がある。

 この試算結果を08年6月に経営陣も把握していた。東電は同年秋、土木学会に同学会の津波評価の見直しを求めたが、現在まで改定はされなかったとしている。

 試算を想定津波に反映しなかった理由について「試算は試算であり、想定ではない」(松本純原子力・立地本部長代理)と説明した。

とある。対策が立案され握り潰されたところまでは書かれていないけれど、見出しレヴェルの情報はまったく同じといっていいくらいのもの。あの頃は、いろんな話が次から次に出て来ていたからなぁ、というようなことも考えはするのだけれど、いや指摘されてみれば、そういえばそういう話もあったような気がしてくる(^_^;)。「試算結果」が文書の形を採らないはずはない。当然、内部文書は存在しているということになる。そういうとこいらへん、個々人はさておき社会的にはきれいサッパリ忘れられていたということだろうか、「スクープ速報」、あれ、「速報スクープ」だったけかな\(^o^)/、まぁ、そういうヤツが出て来るということは。

 

 このへんは、先日の原発事故当時の東電トップに対する強制起訴にも影響するんだろうけれど、世論の記憶力がしっかりしていれば、これまでに東電トップの責任を問う声がもっと強く湧き上がっていてもバチは当たらなかったはずだ、ということにもなってくるのかもしれない*4。記憶力の欠如が、僕たち日本人の、権力なり既得権益層なりに対するお人好し加減を生み出している、ということなんだろうか。

 というわけで、「福島第一原発取材――東電よ、まだ見せられるものがある(添田孝史)」(ポリタス) はてなブックマーク - 福島第一原発取材――東電よ、まだ見せられるものがある(添田孝史)|ポリタス 3.11から5年――それでもが記憶と記憶に基づく展望がちゃんと整理された記事として際立って見えた。僕なんかのお粗末さまなオツムではこういうの書けっこないよなぁ。ま、別にプロのライターさんぢゃないんだし、書けなくったってだぁれも困りやしませんけれど。

 

 そんなこんなで、別にだからどうしたというような声高に語りたいことがあるわけでもないのだけれど、もうちょっと僕たちは物覚えがよくてもバチは当たらないんぢゃないかと思ったのだ。福島第一原子力発電所廃炉までには、まだ少なくとも40年はかかるということになっている。ほんの5年かそこいらでこの健忘症ぶりでは先が思いやられる、くらいのことは云ってもいいかなぁ。うーん。

 

 「柏崎刈羽原発:制御棒1本、勝手に動く 規制委に報告」(毎日新聞) はてなブックマーク - 柏崎刈羽原発:制御棒1本、勝手に動く 規制委に報告 - 毎日新聞、勝手に動く制御棒とあっては制御が制御になるわけもなく、これはもう何かの霊障というか幽霊の仕業とでも云う他ない。どんな場の記憶が影響しているんだかはわかんないけれど\(^o^)/、この際だから、冒頭のヴィデオにご登場遊ばしていた Kansho Aizawaさんをお招き申し上げてお祓いしてもらうよりないかもね。

 

原発事故と科学的方法【岩波科学ライブラリー216】 (岩波オンデマンドブックス)

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呼び覚まされる 霊性の震災学

呼び覚まされる 霊性の震災学

 

「あの日から5年 タクシードライバーが遭遇した「震災幽霊」が伝える被災地のリアル」(BOOKSTAND) はてなブックマーク - あの日から5年 タクシードライバーが遭遇した「震災幽霊」が伝える被災地のリアル - ニュース|BOOKSTAND(ブックスタンド)経由。幽霊の話、日本語で目に出来たのはこれくらいしかないんだけれど、実際のところどんな感じになっちゃってるんだろう。

*1:cf. google:中岡俊哉

*2: このへん、まず予測の問題は、「巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書」(衆議院) はてなブックマーク - 巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書衆議院議員吉井英勝君提出巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問に対する答弁書 はてなブックマーク - 衆議院議員吉井英勝君提出巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問に対する答弁書に当たられたし。事実に反する答弁云々についてちゃんと確認なさりたい場合は、エントリ末尾に紹介してある牧野淳一郎氏の著作に当たられたし。

*3: これ、ことの経緯をわかりやすくまとめてくれている記事になっている。目を通しておいてバチは当たらない。

*4: ついでながら、これは私たち記憶力の問題ではないけれど、牧野淳一郎「原発事故シミュレーションと『想定外』」(PDF) はてなブックマーク - によれば、実は原子力安全基盤機構によるシミュレーションによって《要するに/7mの津波メルトダウンすると以前からわかっていた》(pp.49-50. 強調原文)のであり、「想定外」でなくても充分あの原発事故は生じていたことになるのだという話もある。東電は、ちょいとヒトを舐めすぎなんぢゃないかと思わずにはいられないなぁ。