幸田弘子の朗読による「たけくらべ」、声の魅惑
那珂太郎『時の庭』で幸田弘子による樋口一葉朗読公演をずいぶん褒めている。これはちょっと聞いてみたいな、と YouTube を漁ってみたらこれがあった。タイトルにも説明文にも幸田弘子の名前はないが、コメント欄の遣り取りに名前があがっていて検索にかかったのだ。名前だけではわからないが声を手がかりに片っ端から聴いてみれば、樋口一葉、まだ幸田の朗読が見つかるかもしれない。
幸田の朗読公演は、目の前のテキストを読むのではなく全文暗唱によるのだという。残念ながらこの YouTube のものでは、そのへんがどうなっているのかはわからない。しかし、いずれにしても、これはチャーミングな朗読だなと感じるには充分なものだ。
那珂太郎は幸田の朗読の藝の部分に目を向けて、ほとんど絶賛に近い言葉を並べている。僕は朗読の類を熱心に聴き比べるような経験を持たないから、そういう部分はそういうものですか、と承るより他ない。ただ、自分の印象としては、たぶん藝以上に幸田の声質がかけがえのない力となっているように思える。「たけくらべ」の、書き言葉と話し言葉のせめぎ合いみたいなところは、少しドスが効いているといえなくもない幸田の迫力ある声のおかげで、テキストを黙読するときよりも鋭く感じ取られるような気がする。そこいらへんの、声質の魅力の機微みたいなものは、しかし、どうやって説明すればいいもんなんだろう。うーん。
本文テキストと照らしながらお聞きになりたい方には、以下がお薦め。
- 樋口一葉「たけくらべ」(青空文庫)
朗読を耳にしながらなら、新字新仮名はない。ここは旧字旧仮名版を。
- 樋口一葉「たけくらべ」(えあ草紙)
で、せっかくなんだもん、縦書き表示なら尚可というわけで、こちらも。えあ草紙については、「えあ草紙工房 | 青空文庫縦書き対応、汎用電子書籍リーダー」 を参照されたし。
紙の本で読むなら、まずこのへんか。脚註で語釈がつくので、辞書をあたふた引いたり、ページをあっちこっちうろちょろしたりしないで読める。著作権保護期間切れの作品は、こういう形で提示すればいいぢゃんという一つの手本みたいなもんだよなぁ、これ。もちろん、「たけくらべ」も収録。