20セントの手動遠心分離機、あるいは発明の秘儀

 それぞれ、再生画面右下「CC」をクリックすると英語字幕が表示される。NatureVideoとWiredのは自動生成英語字幕、Stanfordのは採録英語字幕になっている。詳しさとわかりやすさ、いずれもStanfordのがいいかなぁ。詳細情報は、「Inspired by a whirligig toy, Stanford bioengineers develop a 20-cent, hand-powered blood centrifuge」(Stanford News)「Hand-powered ultralow-cost paper centrifuge」(Nature Biomedical Engineering)あたりか。面白いネタだから、たぶん日本語情報もどこかに出てるんだろうな。あとでググってみっか。

 

 用途はマラリアやアフリカ睡眠病の原虫発見などに、少なくとも現在は限られているから、本格派遠心分離機があらゆる分野で不要になったとかいうような弩派手な話ではないけれど、とにかくアイディアのシンプルなところがスゴい。出来上がったモノの映像を眺めていると、なぜこれが今まで存在しなかったのか、そちらのほうが不思議な気がして来なくもない。しかし、実際に遊んだ経験のあるヒトも多そうなびゅんびゅん独楽を改めて見直してみようという発想、そもそもなかなかないものぢゃないか。

 独楽の回転数や加速度を測定しようというところに至るのはさらに少なく、「美しい数学」でもって捉えたヒトはごくわずか、そのわずかなヒトの中でこのヒトだけがバイオエンジニアだったことで生まれたのが、この20セントの手動遠心分離機ということなんだろう。

 実際のところ、たとえば、「びゅんびゅんゴマを作ろう(ブンブンゴマ)│科学実験データ│科学実験データベース」(公益財団法人日本科学協会)を見ればわかるように、「科学協会」と称する団体が子ども向けとは云え取り上げるに値する教材と見ているわけだし、《比較的簡単な工作ですが、意外な高速回転が得られる楽しい独楽(コマ)》として紹介されてさえいる。科学的な興味対象として意味あるものと見ているのだから、後は《意外な高速回転》の定量化と血液検査のプロセスについての知識さえあれば……というふうに思えなくはない。でも、その2点に到達することが恐ろしく人類の歴史にとっては難しいことだったのだな。びゅんびゅん独楽は、僕が子ども時代にもあったものだし、たぶんそれ以前から、それも相当の昔からあったものなんぢゃないだろうか。ひょっとすると1世紀やそこいら、人類はびゅんびゅん独楽を興味深い玩具としてしか見られなかったわけだ、このバイオエンジニアさんに出会うまでは。

 そう思って眺め直すとなんかしらそれまでとは違った、様々な偶然と必然の、貴重な交差みたいなものが感じ取られる気がして来て、心揺さぶられる思いがする(と云ってみたいところだけれど、それはちょいと大げさかしら)。う~ん。

びゅんびゅんごまがまわったら (絵本・ちいさななかまたち)
 

 たしか複数の独楽を同時に回す話も出て来ていたはず。手動遠心分離機の効率をあげるアイディアとして採用できないかしら?^^;

 しかしなぁ、82年刊行のこの絵本ももうずいぶん以前に出たものってことになるのか。う~ん、こちらも爺ぃになるわけだわ\(^o^)/