本日の埋草/Scientists see a mind controlled virtual reality

 ワシントン大学での自分のオツムでコントロールするVRの研究、スゴいのはVR内体験を直接脳への刺激として実現しようとしているところ。映像中でのゲームプレイは、直接的な視覚聴覚その他の感覚には拠って行われていない。脳へ直接送り込まれた刺激から感じ取った経験を、プレイヤは自分の行動の拠り所にしているということらしい。

 現在のような3Dゴーグルによる視覚的な体験にとどまらず、センサーで捉えられたもの、コンピュータで作られた世界のありさまを、触覚や嗅覚に至るまで経頭蓋磁気刺激*1(Transcranial Magnetic Stimulation*2)を利用して感じ取らせようとする研究なのだそうな。

 実験台になっている研究助手のニイチャンの話によれば、脳への直接的な刺激といっても、実現出来ているブツは、眼内閃光(phosphene)が見えたら障害物にぶつかったのだなと了解するとかなんとかいうレヴェルみたい。だから、研究目標と比べるとお粗末様というところなんだろう。でも、これはなかなか研究の主題としてはおもしろいものなんぢゃないだろうか。

 今までのVRだと、視覚は3Dゴーグル、その他の知覚はフィジカルな装置で実現するというのが主流だったんぢゃないかしら。嗅覚のためには匂いの元になる物質を用意して、体験の場でテケトーに合成して体験者に嗅がせるというふうな。あるいは脳と直接信号の遣り取りをして、たとえばロボットをコントロールするとなると、現在だと頭に電極をぶっ刺したりするような侵襲的なアレコレも必要になる。でも、そういう用意の一切が不要になるわけだ。したがって、フィジカルな障害を抱えたヒトにも、健常者と極めて近しい経験を比較的簡単にもたらすことが出来るかもしれないというわけだ。

視覚に限って云えば、「本日のBGM/Until The End Of The World - Wim Wenders - soundtrack」*3で紹介した視覚障害を克服する装置のことを思い起こす。

 こういう事態がすべての感覚に及ぶというわけだ。

 こういうのが、冒頭のヴィデオでRajesh Rao教授が語る通り、本当に20年程度で日常的に用いられるほど実用化出来るのかどうかはわかんない気がするけれど、出来たとしたらスゴいわねぇ。

 

 当然のことながら悪用も様々考えられる。たとえば、拷問装置への応用なんてのは思いつきやすいところぢゃないだろうか。相手にはリアルで強烈な苦痛を感じさせることが出来て、なおかつ身体に傷跡の類を残さないとなると、警察での取り調べなんかにはモッテコイだと考える向きが出て来ても不自然ではないかもしれない。苦痛を与えるだけなら繊細なリアリティも不必要だから20年待たずとも、実用的な拷問装置なんてホイホイ出来ちゃいそうだし。取り調べの可視化はやっぱり必要なんぢゃないか。うーん。

 個人的にはかつて『ニューロマンサー』が描いていたような全身的なネットへの没入みたいなものが実現される可能性を想像しちゃったりする。そこいらへんは実用性がないけれど、娯楽目的での本格的でないかもしれないけれど、ライトなのが出て来るだろう分、案外サッサと利用できるようになったりしないかしら。ならないかなぁ、う~ん。

 

 まだちゃんと読んでいないのだけれど、研究のとりあえずの詳細は、ワシントン大学「No peeking: Humans play computer game using only direct brain stimulation」(UW Today)hatebuで読める。調べていないのだけれど、昨年12月の記事だからひょっとするともう日本語情報が出ているのかもなぁ。ノロマでスマンm(_ _)m。

 

 

*1: google:経頭蓋磁気刺激

*2: google:Transcranial Magnetic Stimulation

*3:【復旧時註】未復旧。

*4: 元エントリで紹介したのはReutersによる動画だった。現在同じ動画は埋め込みからの直接再生が出来なくなってしまった。