本日の備忘録/VRと、想像力とかエンパシーとか

 ホロコーストを生き延びたヒトの映像と語りを使った「ヴァーチャル・リアリティ」による歴史の語り継ぎ。本来的な「ヴァーチャル・リアリティ」と呼べるのかどうかはちょっとよくわからない*1。けれど、この報道を目にするかぎりでは、まるで任意の質問に応じて答えているかのように見えるというのがスゴいな。こういうの、たとえばひめゆり学徒隊の証言員さんたちにも用いられないだろうか*2、あるいは広島・長崎の被爆者さんたち、あるいは……。さらにAIと連動させて、記録されていない答えも、この人物ならこう答えるであろうと思われる言葉を返すようにすることだって、たぶん遠くない将来可能になるだろう*3。そうなっちゃうと歴史を語り継ぐことになるのかどうか。信憑性を考えると、現状あたりにとどめておくのが語り継ぐ目的には最適だということになるのかもしれない。

 周知のとおり、メッセージの内容もさることながらどのようなメディアを通してメッセージが伝えられるかによっても心の動かされ方は大きく異なる。見る側の語りかけに反応して返ってくる表情・しぐさ・声の抑揚のすべてとなると、心を動かす力は良くも悪くも書き言葉や通常の映像ドキュメンタリーを大きく上回る可能性があるに違いない。歴史を語り伝えるという場面で、こうしたやり方が採られるというのはいろいろ考えさせられるところがある。

 これは昨年5月に国連のチャンネルが公開したヴィデオ。難民キャンプの様子を簡易なVRで経験するだけでも、意識の持ち方が大きく変わってくるということらしい。歴史だけではなく現在只今のことであっても、視覚を中心とした広義のヴァーチャル・リアリティは力を持つわけだ。

 裏を返せば、ヒトの想像力といったものはたいていの場合さほどスゴいものだとはいえず、むしろ、その力がいかんなく発揮されることは例外的であるということなのかもしれない。自分と離れたところ、懸け離れた環境で暮らすヒトたちへの支援の必要を感じ取る力としては頼りないものなのだ。そういう頼りなさを補う手段として広義のヴァーチャル・リアリティが有効だというのならば、それはヒトにとって一つの救いみたいなものかもしれない。

 少し前の報道になるけれど、

と、それぞれ10月、12月初めのニュースから。いずれもVRがヒトの心に一層深く大きな影響を与える性格を明らかにしているものだろう*4。善用されるなら結構なことだけれど、苦痛への固執を促したり不安を煽ったりするような使い方も出来はしないだろうか。あるいは、熾烈な環境の中で生きるヒトたちへのエンパシーをもたらす力があるとすれば、逆に特定のヒトたちへの憎悪を煽るような力として利用することも出来るのではないか。もちろん、そうした体験を欲しがるヒトは滅多にいるわけはない。けれど、そういうものを、たとえばVRゲームの要所要所に仕掛けることだって出来ないわけではないだろう。金と力があれば、そういうゲームを大規模宣伝などカマしてベストセラーに仕立て上げることだって出来るかもしれない。

 というような悪巧みのアイディアが次から次に頭に湧いて来るもんだから、どうにも自分の人格が信じられなくなって来て困っちゃうのがVRの問題点ですね\(^o^)/。

 

 最近のVR本はどれもこれもビジネス絡みって感じがしちゃう。それはそれで大切な事の一面ではある。でも、どれもこれもというのではなぁ。というわけで、

ヴァーチャルという思想―力と惑わし

ヴァーチャルという思想―力と惑わし

 

かなぁ、ここでお薦めするとすれば。1997年刊行だから、いろいろ古びた話題も登場するし、用いられる議論の枠組みも近代哲学っぽいものだから飽き足らないってヒトもひょっとするといらっしゃるかもしれない。とはいえ、ヒトとVRの関係の簡便な概観を得るには都合がいいんぢゃないだろうか。今や版が絶えたおかげでマケプレものが安く手に入るしぃ^^;。

*1: ここんところの世間様での「ヴァーチャル・リアリティ」の用いられ方って、ずいぶんルーズになったような気がしません? YouTubeに公開された360°モノのヴィデオまで「VR」と題されていたりするの、抵抗を覚えるのだけれど。単にこっちが爺ぃになったからってだけかしら。まぁそうかもなぁ\(^o^)/

*2:cf. 「ひめゆり資料館、元学徒隊の館内講話を来年3月終了へ」(琉球新報)hatebu

*3:cf. 「本日の備忘録/降霊術2.0」hatebuの、とくに後半。【復旧時註】現在未復旧、というわけでリンク切れ。

*4: 他にも、心身の苦痛の改善や認知症の改善等にVRの力を用いようとする試みは多数あるみたい。手っ取り早いところ、YouTubeで、VRvirtual reality、dementia、patients、pain、cureとかとかの単語を適当に組み合わせて検索してみるといい。