小論文のお勉強/予想外の問題に出喰わしたらば、基本を振り返んなさい

じゃんけん

*1

 奇抜、と見える設問に出喰わせばだれだって驚く。でも驚いたまんまぢゃ答案は書けない。

 ではどうするのか。毎度基本に立ち返る以外にあんまり打つ手はないというとこいらへんが今回のお話。

例題

 じゃんけんの選択肢「グー」「チョキ」「パー」に、「キュー」という選択肢も加えた新しいゲームを考案しなさい。解答は、新ゲームの目的およびルールを説明するとともに、その新ゲームの魅力あるいは難点も含めて、601字以上1000字以内で論じなさい。

2018年早稲田大学スポーツ科学

 

基本的な考え方で論考の大枠は割とすぐわかる(んぢゃないかなぁ)

 意外な出題で一番まずいのは、意外だった点に目を奪われたまま答案のアイディアを練ってしまうことだ。本問でいえば新しいゲームのルールの案出にのみ目を奪われてしまい、設問の核である「論じなさい」が手薄になってしまうこと。予想していなかった内容や形式をもった問題ほど、冷静に基本を振り返って考えられるかどうかが重要になる。

 本問の場合、新しいゲームを作ることがテーマになっている。一般に、新しいものを作り出さなければならないということは、古いものに問題点/改善すべきところがあるということであるはずだ。世の中は広いから、気分転換にちょいと新しくしてみようぜぃってな場合もあるには違いないだろうが、そのへんは酔狂であって、ここでは取り合わない。

 また、本問では新しいゲームについて「目的」「ルール」「魅力/難点」の3点を語るように求めている*2。とすれば、じゃんけん(古いゲーム)についてもその3点から分析して見直してみればいいんぢゃないかということになる。

 たとえば……。《じゃんけんは、一般的にいろんな物事の優劣や順位を決定するために用いる簡便公平な手段としての利用》が「目的」だといえるだろう。で、「ルール」は閲覧諸賢先刻御承知の簡単なもの。だから、《(手指その他に怪我や障碍がないかぎり)だれもがすぐに参加できるという長所(魅力かな?)がある一方で、勝敗は実質的に偶然頼りであり技量を鍛え上げ技を磨き上げるような愉しみに欠ける(難点)がある》*3と整理できるかもしれない。

 そうすると新しいゲームは、そういうじゃんけんの性質と対照的なものとして構想されることになるだろう。新しいゲームは、

  1. 何かのために利用する手段ではなく、それ自体を愉しめることを目的とするようなゲームである(手段×⇒目的○)
  2. いろんな物事に利用するという汎用的なものではなく、特定の目的に利用するゲームである(一般×⇒特殊○)

というような2種類あたりが思いつきやすいものとなるかなぁ。

 で、たとえば1.を採ってみると、考えられるゲームでは《複雑でも構わないから、深く習熟すればするほど培われた実力で勝負できることを重視したルール*4》が必要になるだろうし、その分《入門者がルールを知りさえすれば即座に参加できるような簡便さに欠けるという難点を持つが、それ自体にじっくりと取り組み実力を身につけた上で勝負に臨むような愉しみを魅力として獲得する》ものになる、みたいな論考の大きな枠組みを考え出すことができるだろう。

 2.を採るとすると……ってなあたりは自分で考えてみてちょ^^;。ルールも含めると、たぶんこちらのほうが考えやすいんぢゃないかしら。

 このへんの考え方は、《旧vs.新》という対比の形で整理できるところだから、発想としては割と基本に忠実なもの*5。対比・対照で考えろとかなんとかいったあたり、似たような話は塾や予備校の小論文の授業で耳目にしたことがあるんぢゃないか。現代文でだって、そこいらへん読解の要諦の一つとして耳タコぢゃないかな*6。でも、基本に忠実ならだれでもそういう発想をとってしまって皆似たり寄ったりの答案になるかというと、予想外の出題に対して基本に忠実にホイホイなれちゃう冷静なヒトはレアなのが現実。

 で、上記のようなあたりを考えないで臨むと、新しいルールの説明ばかりに記述を割いてしまい「論じなさい」に応える議論なんか書いてらんないってな具合になっちゃう。

 

 で、ルールのほうは書きません。ケチだからぢゃなくて*7、アイディアを書き始めるとキリがなくなっちゃうんだもんね。設問にはルールについての制約が一切書かれていない。キューと他の選択肢との関係、位置づけもさることながら*8、たとえば、個人戦 or 団体戦、点数制なのか単純に勝敗を決するだけなのか、一回こっきりなのか複数回で勝負が決まるのか、あるいははたまたゲームの途中でグーチョキパーグーの強弱関係が変化させるかどうかとか……何もかもに制限制約がない。考え得るアイディアを書き並べるときりがなくなるもんね。

 逆にいえば、その部分で他の受験生と争おうと考え出すとまぁ無間地獄で阿鼻叫喚ですね、って感じぢゃないかしら。限られた字数と時間の中で抜きん出て興味深いルールを案出するのはきわめて困難。先に述べたような論考部分を固めて、ルールの練り上げは論考に沿う形であっさりと、ってくらいが答案の充実には有効だというのが実際のところなんぢゃないかと思う。もちろん、早稲田くらい受験生がいれば、試験中にだって素晴らしいルールが考案されるってことがあってもいいに決まっているんだけれど、それでもそのへん、自信をもってこなせる受験生は少ないんぢゃないですかね。そうでもないですかね。う~ん。

 と、そんなこんなで奇抜に見える問題でも、基礎基本を大切にしませうね、というお話でした。

 

おまけ

 今回の早稲田大学スポーツ科学部の出題には、正直なところ僕も驚いた。たしかに昨今はエレクトロニック・スポーツ(e-スポーツ)*9みたいなスポーツ概念の拡張と見えるものやら*10、超人スポーツ*11みたいな、身体を使いながらも仮想現実や拡張現実のテクノロジーを持ち込んだ新しいスポーツの開発やらがあったりして、競技を開発することもスポーツ科学に求められているのかもしれない。超高齢社会からだって介護のためのリクリエーションの類で似たような需要も考えられる。だから、実はそこいらへんの話題を扱った出題も可能性として考えて来なかったわけではない。でも、実際に紙上で競技を開発させるという実践が問われるとは、これっぽっちも想像していなかった\(^o^)/。

 でもまぁだからといって、それなりにまともな小論文の指導を受けて来たってんであれば、打つ手なしってことはマズない。それはそれでないがしろに出来ない大切なことであって*12一概に悪いときめつけるわけにはいかないのだけれど、出題傾向に沿った知識講座みたいなのばかりってタイプの指導ぢゃ困るわけですね。知識だけではなくて、そういうものの使い方(=考え方)の基本も何とかしてくれなきゃぁね。といいつつ、そこいらへんの記事、ここではまだ書いてないなぁ\(^o^)/。すみません、すみません。

 それにしても、こういう出題は今後も警戒すべき傾向になるのかなぁ。ここ何年も早稲田大学スポーツ科学部の出題って、少なくとも出題の形はずいぶん変化しているから、まぁ今さらそんなことで悩んでもしょうがないかぁ\(^o^)/。

 

吉岡のなるほど小論文講義10

吉岡のなるほど小論文講義10

 

 小論文の参考書としては異例のロングセラーの改訂版。たぶん論評系ブロガーさんなんかを目指す若いヒトも読んで役に立つんぢゃないですかね。

  こちらは受験生もさることながら、それ以上にその指導者さんに有益なんぢゃないかしら。

*1:「Rock–paper–scissors」(Wikipedia)より拝借。

*2: 「目的」という言葉は、「ルール」の内に捉えることもある。競技の、すごろくに譬えれば「あがり」に相当するヤツを「目的」としてルールに定めるわけ。でも、ここでは設問に合わせて別扱いとする。

*3: 「偶然頼り」と云い切っちゃうと違和感を覚えるってヒトもいるみたいだけれど、まぁそうだから仕方ないですね。ごく限られた仲間内なら出す手の癖みたいなものがあって、それなりに心理的駆け引きが存在し得るケースも考えられないでもない。でも、参加者が多い国際大会(なんとそういうのが存在するのだ!)の例年の上位入賞者を見ると、毎年入れ替わり立ち替わりで同じ名前が登場することなんてほとんど皆無といっていい状態なの。つまり、従来のじゃんけんは実力勝負というよりも「偶然頼り」と見たほうが実情に近いんぢゃないですかね。cf. 「じゃんけん 10 主要な大会」(Wikipedia)に出ている World Rock Paper Scissors Society sanctioned tournamentsの結果など。

*4: 心理的駆け引きがモノをいうルールとか、確率的な計算が直感的にパパっとできるかどうかが勝敗を分けやすいルールとか

*5:cf. 「比較対照ってやっぱ重要だと思うなぁ」。必ずしも小論ネタとして書いたわけぢゃないけれど、十分参考になると思うぞ。

*6: 読むべき文章にそういう形が存在するということは、書くべき文章にそういう構造を作り込めばいいということになるでしょ?

*7: ケチでないわけでもないかぁ\(^o^)/

*8: あんまりちゃんと考え抜いていないからアレだけれど、このへん、そんなに複雑な関係を設定するのはむずかしいんぢゃないかな。基本的構造は、大雑把に見て2通り。一つはキューを旧来のグーチョキパーと対等なものにするというパタン。じゃんけんの選択肢それぞれは他の2つの選択肢との勝敗関係しか持たなかったが、キューが加わると3つの選択肢との関係を考えなきゃいけなくなる。そうなると、一つの選択肢が他の3つの選択肢に対して取り得る勝敗パタンは、(勝ち×2、負け×1)、(勝ち×1、負け×2)、(勝ち×1、負け×1、引き分け×1)くらいになるのかな。全体で選択肢が全部同じだったり4通り全部がそろったりすると、これも引き分け。そういう簡単な設定ぢゃつまらないというヒトもいらっしゃるだろうし、多人数だとあいこ(引き分け)が増えて勝負がなかなかつかないぞと文句をつけるヒトも出て来そうだけれど、「目的」をこいつに合わせて考えれば、そういうルールもアリだろう。▼もう一つは、グーチョキパーに対して上位/下位にキューを位置づけるパタン。たとえば、キューを他の選択肢すべてに勝つ/負けるような設定。もちろん、それぢゃぁだれもがキューを出す/出さないに決まっているので、なんらかのハンディ/あるいはハンディの逆(なんていうんだ?)か何かを設定することになるだろうけれど……ってな感じで、ありがちな答案としてはこのへんを基本にしたルールを考えてるんぢゃないか、と思っちゃうんだけれど、どうかしら。▼細かいところはさておき、想定されるルールのほとんどはこの2つの基本構造のヴァリエーションにとどまるんぢゃないかなぁ。たとえば、キューは他の選択肢と同時に提示することで意味を持つようにするとか。そういうのはだいたい後のパタンになるんぢゃないか。

*9:cf. google:e-スポーツ

*10: 僕みたいなコンサヴァ爺ぃには、派手なコンピュータゲームくらいにしか見えないんだけれど。

*11:cf. google:超人スポーツ

*12:cf. 「本日の小論文のお勉強/早めに取り組みたいこと」【復旧時註】未復旧。