堺貼り紙・看板散歩/愛する神の歌なんか聞こえない

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 石屋さん。すぐそばが墓場、店内も墓石ばかり。

 《ご自由にお入り下さい》と云われても、まだ当分入るつもりはございません、と答えたくなる。

 

 墓石となると思い出すのは、これかな。

春から秋へ、 墓石は、おのづからなる歴史を持つだらう。

風が吹くたびに、遠くの松脂の匂ひもする。

やがて、
私達も此処を立ち去るだらう。かりそめの散歩者をよそほつて。

津村信夫「愛する神の歌」後半*1

 今の目で見れば、あんまりにキメすぎの気配なきにしもあらずのアリアリぢゃないかってところなんだけれど、それでもなぁ、なんだかんだ云っても四季派のヒトはうんまいなぁ。うーん。

 「松脂の匂ひ」は、若いヒトには通じにくいか。たぶん、松脂そのもののではなくて、線香のもの。今はどうなってるのかよくは知らないのだけれど、線香をまとめ、固めるのに松脂が用いられていた(いる)ことがある。詩の舞台は姉の埋葬された墓の前。「遠くの」が少しひっかかるかもしれないけれど、匂いが漂うとすればやはり線香のもの、と、ことさら理屈を通す必要もないのだけれど。でも、この行で、そこまでの、ていねいに言葉を選んで書かれてはいても当たり前の光景と感慨を語る気の利いた散文みたいだと云えなくはない詩行を、あの世とこの世の境を緩く解くものへと変えてゆくような効果を上げている。「遠くの」はそう受け止めると無理のない言葉になる*2。要するに、あの世から漂ってくるのだと暗に示していると見ればいい。で、「私達」の「も」とセットで「此処」を墓場であるばかりではなくて「この世」と読むことに無理を感じさせない雰囲気を作っているように思える(んだけれど、どうかしら)。

 というような野暮をついつい書いてしまうという教師根性の為体。なんとかしたいものである*3。うー。

 

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 中央公論社からは、もうKindle版しか出ていないのかぁ。紙の文庫は新潮文庫版で。原作はさておき、NHKでドラマ化されたときの仁科亜季子(当時は「仁科明子」)がすんごくステキだったんだよなぁ。うー。

 

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 近代浪漫派文庫のは未見。界隈の書店で津村信夫の詩集類に出会った験しがない*4。以前、本家「与太」で触れたみたいに近代浪漫派文庫は蒲原有明のヤツがちょいとアレだったからなぁ。津村信夫蒲原有明みたいな改作魔だったって話は聞いたことがないから、たぶん大丈夫だと思うけれど。

 青空文庫にも詩が収められていないとなると、お若い方が津村の詩に出会うチャンスは図書館の中にしかないんだろうか。あとはかろうじてウェブで断片的に、ということになる。決して大詩人ではないだろうけれど、これはちょいとヒドいんぢゃないか>出版社さん各位。

 こうなってくると電子書籍でも何でもいいから、日本でも、ちゃんと詩集単位、入手しやすい判型のNRFのポエジー叢書みたいなヤツをちゃんと作っておかないとだめなんぢゃないかという気がしてくる。思潮社の現代詩文庫ぢゃ二段組だし、何よりも詩集単位ぢゃないし、テキストの選択なんかもどうなってるのかよくわかんないし。

 よっしゃ、吾輩が作っちゃうしかないな、年末ジャンボ宝くじ1等が当たったら\(^o^)/。

 

*1: ちゃんと暗唱できていないので後半だけ。後半だけでは何のことやら、なんだけれど、句読点と改行あたりはすでに怪しい。たとえば、「かりそめの散歩者をよそほつて。」は独立した行にしたほうが様になるような気がするのだけれど、記憶じゃそうなってない\(^o^)/。感覚も記憶力もともども信用ならないアテクシとしては、はてさてである。と、そんなこんなで、あとはググればきっと出て来るはず。ぜひとも前半ともども読まれたし。ググってから引けばいいんだけれど、この詩だと、なんとなくそれも野暮な感じだし。と己の不精をとりあえず正当化しておくべし\(^o^)/。/とかなんとか書きつつ、やっぱりググってみたら、だいたい合ってるみたい。ググってみた範囲だと、最後の改行、割れてるんだけれど、多数決だと改行なしで決まり(^_^;)。/著作権保護期間は過ぎているのだけれど、青空文庫には津村信夫の詩集、入ってないのね。びつくり。と書いて、以前にも同じ事態に驚いたことがあるような気がしてきた(^_^;)。

*2: ついでながら、「おのづからなる歴史を持つだらう」あたりもそういうとこいらへんを用意している言葉なんだと思うんだけれど、面倒臭いから説明は省く。

*3: こういうとこいらへん、意味の解読と受け止めないでね。作品の気分の醸し方のアナリゼみたいなことをしてるのであって、暗号解読みたいな作業と混同されちゃぁなぁってところ。

*4: というかまともな詩のコーナーに出喰わさない。