本日の音楽/Ryuichi Sakamoto - Black Mirror: Smithereens

 「Ryuichi Sakamoto Scores New “Black Mirror” Episode, Shares Song: Listen」(Pitchfork)hatebuというわけで、坂本龍一の新しい音楽。難しいあたりはさておき、聞き流しても聴き込んでもいいような、あぁサウンド・トラックなのだなぁという仕上がりか。

 それにしても、Milan Records USAのYouTubeチャンネル、他にも坂本作品をずいぶん公開している。『async』hatebu*1『BTTB』hatebu『Rage (original motion picture soundtrack)』hatebu*2『Merry Christmas Mr. Lawrence』hatebu*3『Plankton』hatebu*4、といったあたり、まだ見落としがあるかもしれないが。

 そもそも、このYouTubeチャンネルでは、坂本龍一にかぎらず、多くの作品のサウンド・トラックを公開している。「本日の音楽/Jóhann Jóhannsson and Hildur Guðnadóttir - Mary Magdalene」で紹介したJóhann Jóhannssonの遺作もそうだし、『AKIRA soundtrack』hatebuみたいな邦画アニメなんかもある。だから、無料公開は半ば以上レーベルの方針なのかもしれない。

 けれど、2点、他に見られない特質が、坂本龍一の場合には指摘できるかも。

  1. サウンド・トラック以外の作品の無料公開
  2. 音楽が無料公開されることになる可能性を昔から考えていた

 第1の点は、先に列挙した公開作品を見れば一目瞭然だろう。Milan Records USAは現在サウンド・トラックのリリースに特化したようなレーベルになっている*5。そういうチャンネルで『async』や『BTTB』のような作品のリリースは極めて例外的ぢゃないかなぁ。たぶん、そこいらへん、アーチストの意向が大きく働いていそう。

 第2点目は、たとえば、前世紀末に行われた座談会での発言を見ればわかる。

伊藤*6 物とパフォーマンスにいっちゃうといいんじゃないかな。たとえば音楽はもう自分のアウトプットで、タダにして、だけど坂本さんの汗一滴、それ持ってる人のほうがファンみたいな。よくわかんないけどさ。

坂本 音楽以外に買ってもらえるようなモノをプロデュースしないと、生きていけない、食っていけない。くだらない話、Tシャツを作るとかね。音楽はもうタダで聴けちゃうわけだから、ネット的なビジネスモデルと同じように、苦労して作ったものはタダで、どうでもいいものを形にして、買ってもらうしかなくなっちゃう。

『村上 龍と坂本龍一 21世紀のEV.Café』(スペースシャワーブックス)、pp.112-3

 『村上 龍と坂本龍一 21世紀のEV.Café』は、2013年の刊行だけれど、上に引いた発言が出た座談会(村上 龍、坂本龍一伊藤穰一、竹中直純)そのものは『エスクァイア日本版』1998年12月号が初出になっている。話の骨格みたいな部分は、フリーソフトウェアに関わる形で当時取り沙汰されたものの影響があるように思える。ソフトウェアは実質無料で頒布されるが、ソフトウェアをめぐるサービスを有料化する、みたいな話だ。だから上の話が根本的に新しいものかどうかはよくわかんない。でも、音楽の話として20年前にこういう話がなされることはなかったんぢゃないかなぁ。あったとしてもほとんどマイナーなシーン。だってナップスターは出て来てすぐさま潰されちゃったし*7YouTubeはまだ登場していない時代だものね。

 そういう考え方を昔から持っていたとするなら、現状のような無料公開は坂本龍一にとっては突飛な話ではないということになるのかな。したがってまたそうした公開方法についてはすでにある程度の準備なり覚悟なりが出来ていたということなのだろうか。「汗一滴」のほうはどうなっているんだかわかんないけれど\(^o^)/。といっても、坂本本人にはすでに生活の心配があるわけではないのだろうし、そこいらへんは鷹揚にというだけのことなのかしら?

 

 で、だからどうしたというオチは全然ないんだけれど\(^o^)/\(^o^)/。音楽の無料公開がなされると、からっけつの10代でも、ネットへの接続が確保出来ればという条件はつくものの、浴びるように音楽が聴ける。もちろん、ネット上に音源がなければ話にならない。無料で聴ける音源のある音楽のみが浴びるように聴かれることになる。音源がなければ、聴かれることはない。そこんところで音楽文化の継承みたいなこと考えないと、聴き継がれることのない音楽が大量に生まれる時代になっちゃうぞ、みたいなことは考えないでもない。

 

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*1:『async remodels』付。

*2: 『怒り(サウンド・トラック)』。

*3: こちらのplaylistは現在3曲のみ。「Merry Christmas Mr. Lawrence」、「Father Christmas」、「Forbidden Colors」。当初は全曲公開だったんぢゃなかったっけか。こういう曲の増減や曲順の変更が行われることがあるのが玉に瑕だわね。

*4: ただし、こちらは、アルバム丸々という点に変わりはないけれど、playlistではなくて通常の1本モノのヴィデオ。

*5:cf. Milan Records - Wikipediahatebu

*6: 伊藤穰一

*7:cf. google:ナップスター