本日のSong/小室 等 - 夏が終る

 ここ数日、一気に気温が下がって寝苦しさがなくなって*2、あぁ、今年も夏が終わってしまうのかぁ、と例のこととしてため息をつくことになる。別に夏に特別の期待、たとえばひと夏の恋みたいなものへの憧れなんぞがあるわけでもないのだからケッタイな話だな、と自分でも思 うのだけれどそうなってしまうのだからまぁ仕方ありませんね。

 それにしても、と思うのは、歌われる夏は終わってしまうものばかりなのだなということ。「『夏が終わる』の検索結果」(YouTube) hatena bookmarkを見てみると、その多さに改めて驚くことが出来る。タイトルだけでもこんなに終わっているのだけれど、タイトルに「終わり」が顔を出さなくても歌詞中に登場したり、間接的に終わりを感じさせる言葉が用いられる歌詞になっていたりするものも含めると、歌の数はさらに膨れ上がることになる。たとえば、中川イサト*3の場合、その気になりさえすれば見られるのは「夏の終わり」の海だし、吉田拓郎*4なら「夏休み」はもうすでに過去のものになってしまった夏休み、つまりは夏はとっくの昔に終わっているのだし、日暮し*5の「私の夏が死んでゆく」のも終わりの喩に他ならない。類例は数多あまたあって、要するに、歌の中の夏はいつだってすでに終わっているに決っているのだ(かどうだか)。

 

 そういう、終わる夏の歌の極めつけが本作だと思うんだけれど、どうかしら。

 本作の場合、谷川俊太郎*6による歌詞中、「夏の終わり」は直接顔を出さない。けれど、この「夏が終る」というタイトルが抜き差しならないものになっているというのは大方の認めるところぢゃないかしら。タイトルは詞の言葉と絡み合って、決定的な終わりに立ち会っているという感覚を醸す。とくにまるでエンドロールのように草花・虫・天体の名が次々と詠み込まれるところなど、深い断絶の到来が歌の言葉の外からり出してくる気配を感じる。このあたり、そこここに転がっている他の「夏の終わり」の歌を圧する終わりの始まりがある。そのへんがそこはかとなく漂う白い鎧戸の軽井沢文学みたいな雰囲気らへんを超えて、ボンビー暮らしの当方の心にも刺さる感じなのだな。

 作曲と歌は小室 等*7。音の組み立ては非常にシンプルで、ギターも基本的にはFM7とG6(または普通のG)のアルペジオ*8のちょっとしたヴァリエーション付きの繰り返しに、CM7とEm、Amが入る感じ*9。バックのピアノ(矢野顕子*10)がテンションのある音を絡ませているのもカッコいいわね。

 

 矢野顕子には、実はこの歌の素晴らしいカヴァーが存在するのだった*11。そもそも「夏が終る」を知っているというヒトには、『SUPER FOLK SONG』で初めて耳にしたというケースが多いんぢゃないか。ブームの「中央線」がそうであるみたいに、小室 等のオリジナルより広く聴かれているかもしれない。

 

 小室 等は他にもずいぶんたくさんの谷川俊太郎作品にメロディをつけて歌っている。その中でも「夏が終る」と「芝生」は格段にいい。もちろん、詩のうまさもあるのだけれど、並ぶ言葉の平易に見合った小室のシンプルな曲作りにだって負うところは大きいんぢゃないかしらね。

 

 「夏が終る」収録。

 

 「芝生」収録。ネット上には音源が見当たらない。かろうじてアマゾンのマケプレものに試聴用冒頭45秒ぶんの音源があるだけかなぁ。

 「芝生」は元々の詩がチャーミングなものだから*12、いろんなヒトが曲をつけているし、たぶんこれからもつけるヒトが出て来そうだけれど、それでもそれらはそれらでさておき、シンプルで字余り感があってひょっとすると鄙びた感じがしないでもない小室版、どうもこれはずっと好きでいられるんぢゃないかと思う。

 

SUPER FOLK SONG
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矢野顕子
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 「夏が終る」収録。その他「中央線」、「塀の上で」、「スプリンクラー」等のカヴァーも素晴らしいので、人類のみなさんはさっさと聴いておくべき。

 

*1:ママ。原題は「夏が終る」だったはず。

*2: ホントのところ、僕は横になると少々暑苦しくてもパタっと眠ってしまうので、本格的な寝苦しさを感じることは滅多ないのだけれど、一応時候の挨拶的に、まぁ。

*3:cf. google:中川イサト

*4:cf. google:吉田拓郎

*5:cf. google:日暮し

*6:cf. google:谷川俊太郎

*7:cf. google:小室等

*8: コード表記は実際のキーではなくてplay key。カポの有無とか位置とかはまだ確認していない。いい加減ですんませんm(_ _)m。

*9:かな? このへんもちゃんと確認しないと怪しいかも。

*10:cf. google:矢野顕子

*11:cf. 「Akiko Yano - Piano Nightly - 11 Natsu Ga Owaru (The End Of Summer)」(YouTube) hatena bookmark。出来れば、ちゃんとした音源と再生装置で聴かれるべきかと思う。

*12:cf. 「『芝生』について」(谷川俊太郎.com) hatena bookmark/あと、僕くらいの世代の方はご存知ないかなと思うのだけれど、「芝生」は今国語の教科書に多く顔を出す作品になっているんだそうな。