本日の埋草/ゾラとブルトン

 「ゾラ」というと連想はどうしても自然主義文学の提唱者エミール・ゾラ*1に飛んで行く。

 こちらは超現実主義の法王アンドレ・ブルトン*2にちなむ名前であるというのが通説になっているようだ。

 しかし、このヴィデオでのブルトンの戦いっぷりは、いささかの予備知識がなければ何をやっているのだか見当もつかないかもしれない。ブルトンは、フジツボか何かの怪獣ではなく、なんと4次元怪獣ということになっていて、「4次元現象」なるものを利用して攻撃を仕掛けてくるという設定。フジツボからニョロニョロと突き出されるアンテナ状のモノは、4次元繊毛と呼ばれるもので、そいつを使って時空をどういう具合にしてだか攪乱させるとかなんとかいった何かなんだろう。おかげでウルトラマンも行動に窮するのである。ちゃんと説明できている気がしないが、まぁそういうもんなので仕方がない\(^o^)/。何といっても4次元なのだからして\(^o^)/\(^o^)/。

 で、そういう4次元云々が、物を歪めて描くダリの絵画作品あたり⇒超現実主義⇒ブルトン、といった連想を呼んだ結果出来たのが「ブルトン」という名前なのだろう。しかし、超現実主義といえば、詩人だけをとってみても、ブルトン以外にエリュアールとかアラゴンとかスーポーとかアルトーとかシャールとかデスノスとかプレヴェールとか……いくらでも著名な登場人物に事欠かないのになぜブルトンなのか。

 

 こう「ゾラ」と「ブルトン」、二つ並べてつくづく感じるのは名前の響きの不思議である。「ゾラ」は何となく怪獣の名としては違和感があるのに対して、「ブルトン」はそれにふさわしいように思える。そう感じるのは、自然主義vs.超現実主義みたいな余計な知識の影響があるからだとしておけばとりあえず世間的には通ってしまう説明になるのかもしれないけれど、まぁそんなのは嘘っぱちですね。だって、そんなものを知らない子ども時代にも「ブルトン」という響きは、怪獣としても異形の部類に入るに違いないブルトンにふさわしいものに感じられた記憶があるもんね。

 ゾラのほう、実は上のヴィデオが初見であってリアルタイムには見ていない。だから、こちらはエミール・ゾラについての知識が名前に対する印象になにがしかの影響を与えているかもしれない。でも、「ゾラ」を「ブルトン」と比べて弱々しいと感じなければならない理由ってそういう知識の中からは見つけられないんぢゃないかなぁ。う~ん。

 そういうとこいらへん、つまり言葉の響きに「ブルトン」が怪獣の名前として採用された大きな所以もあるように思える。

 

 言葉の響きにどういう印象を持つかというあたり、各人の主観を超えて語るのはむずかしいように思える。たしかに、マラルメ「詩の危機」みたいに《「nuit」には明るい響きがあるのに、「jour」には暗い響きがあって矛盾しておるぞ》*3ってなことを云われても、少なくとも僕は困っちゃうぞ。そんなもんわからんちんだ\(^o^)/。

 けれど一方で、以下に掲げるブーバ/キキ効果みたいなものも世の中では語られている。

それぞれ丸い曲線とギザギザの直線とからなる2つの図形を被験者に見せる。どちらか一方の名がブーバで、他方の名がキキであるといい、どちらがどの名だと思うかを聞く。すると、98%ほどの大多数の人は「曲線図形がブーバで、ギザギザ図形がキキだ」と答える。しかもこの結果は被験者の母語にはほとんど関係がなく、また大人と幼児でもほとんど変わらないとされる。このブーバ/キキの対比は一般には、「円唇母音または唇音/非円唇母音または非唇音」と捉えられる。

どのような音からどのような概念を連想するか(音象徴)に関しては、文化・言語の枠を超えた法則はないとされている。しかしこの効果は、少なくとも図形の印象に関してはある程度、そのような関係があることを示している。「フワフワ」「ギザギザ」という擬態語も(厳密にどの音を選ぶべきかは言語の枠組みに束縛されるが)基本的にはこの関係に基づいていると考えられよう。

ブーバ/キキ効果 - Wikipedia hatena bookmark*5

 つまり、言葉の響きからだれもが主観を超えて同じような意味を感じ取ることが出来るところだってあるのかもしれない。

 怪獣の名前に関してだって、読んだことが実はないのだけれど、世の中には以下のような本も出ている。

怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか (新潮新書)

怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか (新潮新書)

 

 書籍の主張については知らないけれど、タイトルにあるように日本を代表する怪獣の名前といえばガ行の音で始まると決まっている。東宝であれば「ジラ」、大映ならば「メラ」、日活なら「ッパ」、松竹なら「ララ」である。他の怪獣とダブることを比較的気にせずにネーミングが出来た時代であろうにもかかわらず、ガ行の音が図らずも*6異なる映画会社の代表的大怪獣に用いられたのも、実はガ行の音が、怪獣の力強さを連想させるようなものだとそれぞれどの製作者にも感じられたから、かもしれない。

 あるいは、「ゴッホ」というカタカナ表記の問題。

 ここ数十年、人名の読みのカタカナ表記は出来るだけ生地読み、現地語読みに近いものを採用するという原則がすっかり行き渡ったように見える。しかし、実は「ファン・ゴッホ」という表記はその原則に中途半端な形でしか応じていない。旧来「ヴァン・ゴッホ」と記されていた表記からすれば、いくらかオランダ語の音に近いらしいが、さらに近い表記としては「ファン・ホッホ」が考えられるという。

 なぜ原則を貫かないのか。もちろん、理由の一つとしては旧来表記との連続性を保つためだということがあげられるだろう。つまり、爺様婆様が読むとき、「ファン・ゴッホ」なら「ヴァン・ゴッホ」のことだと見当がつくかもしれないが、「ファン・ホッホ」ではちょいと困るだろうといった配慮である。しかし、最大の理由は「ゴッホ」の「ゴ」の字は「ゴジラ」の「ゴ」!、あの怪獣的に力強く見える画風は「ホッホ」の音ではにないきれないと感じるヒトが多かったからではないか。そこいらへん、確かめたことはないんだけれど\(^o^)/。

 こうしたアレコレからすれば、「ブルトン」と「ゾラ」に感じられる力強さの違いにだって言葉の持つ響きによる影響があったとしても不思議ではないのではないだろうか。

 

 というようなことを考えてはみるのだけれど、はてさて「ブルトン」にはガ行の音が含まれていない。ウルトラマンには、第1話に登場するベムラー、第2話から登場するバルタン星人といった、ブルトン同様のバ行の音で名前が始まる大物も存在しないではないけれど、いかにも少数派だ。したがって、このままでは「ブルトン」という響きの力強さを証すには不足がある。話は途方に暮れたままオチもなく終わるしかない\(^o^)/。う~ん。

 でも、ブルトンのほうがゾラよりは強そうだよねぇ~。駄目かなぁ。

 

ウルトラマン Blu-ray BOX Standard Edition

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制作 (上) (岩波文庫)

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 読まなきゃなぁ、と思いつつ、まだ目にさえしていないという為体\(^o^)/

 「ブーバ/キキ効果」その他。

 

*1:cf. google:エミール・ゾラ

*2:cf. google:アンドレ・ブルトン

*3: 「nuit(ニュイ)」は夜、「jour(ジュール)」は昼を、それぞれ意味するおフランス語。

*4: Monochrome version 1 June 2007 by Bendž Vectorized with Inkscape.

*5: 2020年2月28日閲覧。

*6: それとも図ったのかなぁ。う~ん。