本日の備忘録/降霊術2.0

 パッと見でわかるかどうか微妙な気がしないでもないのだけれど、フィリップ・K・ディック(Philip Kindred Dick)を象ったロボット。詳細な公開日は表示されないのだけれど、ざっと8年前の公開。さがしてみると13年前の映像「Phillip K. Dick Android」(rachelg1215、YouTube)まで遡れるみたいだ。最近でもちょこちょことヴィデオは投稿され続けているみたいなので、興味がおありであればテケトーに検索されたし。

 ただし、開発元のハドソン・ロボティクス(Hudson Robotics)*1の公式チャンネルでは、ディック・ロボのヴィデオは公開されていない。あんまり推してはいないということなんだろうか?

 はてブで話題になっているブッダボットのリリース文に目を通して思い起こしたのがこのディックのロボットのことだった。

www.kyoto-u.ac.jp

 《Googleの提供する「BERT」というアルゴリズムを応用し、最古の仏教経典『スッタニパータ』から抽出したQ&Aリストを機械学習させた結果、精度には課題があるものの、ユーザーからの質問に対して文章の形で回答できる状態になりました》というこのブッダボットの大雑把なところは、ディックの残した言葉も学習し、彼ならこう答えるであろうと考えられる答えを返すという冒頭のロボットと似たようなものだろう。

 ブッダボットであれロボ・ディックであれ、いずれも恐山のイタコさんよりは精度の高い答えを返してくれそうではある(ただし、ロボ・ディックのほう、当時の出来具合、性能がどのようなものだったのか、AI部分などとくにいくらか気になるところかなぁ。でも、そのへんはとりあえず些末なこととして措く)。

 それより気になるのは、純粋な好奇心上の問題として、たとえば、将来技術的に進歩し仏典を広範に学習したブッダボットに今日存在する様々な仏教の宗派について論じさせるようなことをした場合、その正当性はどのように担保されるのか、あるいは理論的技術的に担保され得るとしても、その返答内容が宗教的・社会的にすんなりと受け入れられるものなのかどうかってなあたり、かなり気になってくるんぢゃないか。人工知能の出す答えは、場合によってはヒトにその理路の辿れないようなシロモノになることだってあるんだもんね*2。そういう答えの中には、既存宗派の教えを批判や否定する言葉が現れることだってあるんぢゃないか。

 あるいは、AIによって仏典を改めて再解釈しその解釈に従った教えを垂れちゃうぞと宣うカルトが出現したらどうなるか。そういうAI真理教みたいなものが出現した場合、既存の宗派さんはどのように対抗できるだろうか。なんだか最近ではAI利用を売りにする塾なんかも現れるくらいなんだから、AI活用で信者集めを考えるカルトが現れたって不思議ぢゃないでしょ。個人的には、手塚治虫火の鳥』に出て来たコンピュータに完全管理された都市同士が、コンピュータ間の争いから戦争を始めたみたいに、宗派・カルト間のAIによる仁義なき戦いみたいなものを妄想してちょっとワクワクしちゃうんだけれど、そういうのSFネタくらいにはなりませんかね。ダメかなぁ。もう使われたネタかなぁ、ひょっとして。

 だいたいからにして、AIの回答を崇め祀るヒトの姿って結構想像しやすい体のものかもなぁ。うーん。

 

 さらにもう一つ。ワイゼンバウムのイライザ(ELIZA)*4のように、画面に言葉が表示されるだけの比較的単純なプログラムであってさえ、相手をしたヒトは会話に没入してしまったという。では、コンピュータよりも愛着を覚え信頼さえするという*5ロボットとしてブッダボットが改めて作られた場合、ヒトはますますボットとの会話から離れられなくなってしまうというような可能性はないだろうか*6。もしそうした力を発揮するとなると、いよいよそいつを利用して信者集めを図るカルトなんかが出て来ちゃいそうな気がして来る。来ませんかね? 来ないかなぁ。来なくてもSFネタくらいにはできませんかね、無理ですかね。うーん。

 

ふろく

 今回も使わなかった関連ネタを。

 ブッダボット的な技術はこうした方面へも応用可能かもしれない。

 たとえば、一般人であっても、生前から日々の語りを録音すれば、結構な量の言葉をAIに学習させることも可能だろう。ソウヤーのネアンデルタール三部作中のネアンデルタール人のように日常のすべてをログとして残すわけだ。ソウヤーの場合は映像も残しているわけだけれど、さしあたりそこまでの必要はない。記録された言葉をそのまま公開する必要もないだろう。たぶんこっ恥ずかしく感じるヒトが多そうだもんね。秘匿してただAIの学習の材料として残す。学習済みAIを仏壇に組み込めば、折に触れ故人とあれこれ言葉を交わすことのできるスマート仏壇のいっちょ上がりである。人生相談に故人らしい言葉で乗ってくれることだってあるかもしれない。。

 というのはウケませんかね。ウケないかなぁ。うーん。こういうのに用いてこそ、降霊術2.0感あるんだがなぁ。そのぶん、仏罰カブるぞ感も増しちゃいますかね。うーん。

 製品に関する真面目な情報は、「コミュニケーションする「スマート仏壇」とは!?「コハコ」がコンセプトムービーを公開」(ロボスタ)をどうぞ。

 

 2017年12月公開の報道、「本日の備忘録/VRと、想像力とかエンパシーとか」で1度触れたものだ。技術の詳細はわからないけれど、AIで適切な答えを新たにこしらえているのではなく、質問への適切な回答に近似したものをデータベースから選んで答えに代えているというところなのだろうか。しかし、眺めているかぎりでは任意の質問にちゃんと答えているかのように見えるところは、なかなか。

 仮にこうした方面にブッダボット的な技術を応用すれば、ヴァーチャルな語り部による語り伝えの超長期の活動が可能になるかもしれない。答えているように見えるだけではなく、実際にAIがアレコレ考えて「答える」わけだ。美空ひばりに死後作られた作品を歌わせることだってできるのだから、語り部の語る表情も答えに合わせて合成できないはずはないだろう。しかし、その場合の「答え」はどのように受け止められるべきなのだろうか。AI技術そのものが適切に用いられるならば、ほぼそのまま受け止めてよいとする見方もあるだろうけれど、そもそも「適切」の中身をどう考えるのか、「適切に」用いられ得るという保証はどのように可能なのかといったあたりに不安は残るように思える。そこいらへんクリアでないと、政治的中立性がどうのこうのといったクレームをつけるヒトって出て来そうぢゃないですか。

 

 と、また僕が考えても仕方のないことをボソボソ。

 

ホミニッド-原人 (ハヤカワ文庫SF)

ホミニッド-原人 (ハヤカワ文庫SF)

 

 2003年ヒューゴー賞受賞。三部作第一巻。第二巻『ヒューマン―人類―』、第3巻『ハイブリッド―新種―』。並行世界ネタと見せかけて、実は割と愚直な文明批評というところ。ネアンデルタール人は、ホモサピエンスの文明を批判するために作者が設定した仮の尺度。巻を追うにしたがってそこいらへんの説教臭が鼻をつくようになってくるのだけれど、ソウヤーの腕前のおかげで何とかおもしろく読み終えられる作品というところか。カスタマーレビュー、第三巻に至って星5つのがなくなっちゃうのは、面白いんだけれどそれでもかなりの程度致し方なしかなぁ。うーん。

 

順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

 

 ジョン・W・キャンベル記念賞(1995年)、ディトマー賞(1995年)受賞作品。

 降霊術2.0的な考え方を極限まで推し進めてゆくと、記憶も人格もコンピュータに入れてシミュレートしちゃうってなところに行き着くのかもしれない。さらに先にゆこうとすると本作の「塵理論」に、というようなことを考えたりする。ついでながら、下巻もお忘れなく。

 

おバカな答えもAIしてる 人工知能はどうやって学習しているのか?

おバカな答えもAIしてる 人工知能はどうやって学習しているのか?

 

 

*1: 「本日の備忘録/ロボットにとって顔とは何か?」で紹介したソフィア(Sophia)の開発元でもある。

*2: このへんについては、「Delphoi 42」など参照されたし。理路のあらましを割り出すAIなんていうのもあるらしいけれど。

*3:cf. 生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え - Wikipediahatebu

*4:cf. 「ELIZA」(Wikipedia)。項目が英字で記されているけれど、リンク先は日本語版ウィキpである。

*5: 「本日の備忘録/ロボットにとって顔とは何か?」の「ふろく」中、Cynthia BreazealのTED講演を参照されたし。

*6: 冒頭のヴィデオでも、ロボ・ディックと会話したにいちゃん、「ディープな会話(Deep Conversation)したぜぃ」みたいなことを云っていたあたり、そのへんの危うさを感じません?