本日の備忘録/パノプティコン

 以下のヴィデオには、いずれにも気を動転させたり不愉快に感じさせたりするような映像が含まれている。その点をご留意の上、閲覧されたし。

 17日公開。防犯カメラだけで、これだけの映像が撮られたことにも驚かされる。

 

 17日公開。これも防犯カメラによる映像。

 実家界隈、散歩コースからほんの少し外れた場所での事故だった。

 

 この事件をめぐっては容疑者の逮捕がtwitterのTLでも話題に上がっていたので、そのへんのメモを少し。逮捕は比較的多く共有された話題になっていたが、その後の釈放はほとんど話題になっていなかったみたい。

  • 89歳男性、暴走事故で逮捕 飯塚幸三氏とは何が違う? - 弁護士ドットコム

     容疑者が89歳という高齢であるにもかかわらず逮捕されたことが話題になった。しかし《本来は、今回の交通事故においては、結果が極めて重大であるという事情等を考慮したとしても、逮捕する要件は認められないと考えられます》と坂口靖弁護士が語っていたとおりだったようで……

  • 暴走事故の89歳男性を釈放 大阪、勾留認められず | 共同通信

     男性は19日に釈放されている。けれど、上の記事から考えると、こちらの記事のいう《大阪地検支部は勾留請求をしていたが大阪地裁堺支部に却下され、準抗告も退けられた。高齢であることなどを考慮したとみられる》というあたり、「高齢であることなど」の「など」のほうが高齢であることそれ自体よりも重要だった可能性があるということになるかも。

     そして、「など」の重要な一部として、取り上げた防犯カメラ映像のような明々白々な証拠品の存在があるというわけだ。逃亡の恐れもなく証拠隠滅のなしようもないとなれば逮捕無用となる。世間では逮捕を裁判要らずの懲罰だと考えているようなフシがあるけれど。

 防犯カメラ映像がきっかけになって犯行が露見して逮捕に至るという通常パタンの逆、映像のおかげで逮捕というかその後の勾留を免れたということになるのか。

 

 最近、日本の報道で取り上げられる犯罪の行われる場面を捉えた防犯カメラ映像は、ほとんどの場合犯人の頭部には色付きのぼかしがかかっている。あれはどういう事情からそうなっているのだろう。防犯カメラ映像が取り上げられ始めた頃には、顔を隠さずに放映していた記憶がある。映像はたいてい「警察提供」のもの。眺めながら、「知人ならわかっちゃうな」みたいな感想をツイートしていたものだった*1。ところが、例外があるとはいえ*2最近ではほとんどの場合、頭部に色付きのぼかしがかかるようになった。これはどうしたことだろう?

 そっくりさんについての誤通報を防ぐというのは思いつきやすいところ。あるいは映像の公開を通して、もうホントは顔バレしているのだぞ、さっさと自首すれば罪はなにほどか軽くならないでもないのだぞ、と自首を促す効果でもあるのだろうか。あるいはもう少し単純に、そもそも顔情報を公開すること自体が人権侵害でありおかしいという判断でもあったのだろうか、というのは、我が国のこととして最もあり得なさそうな推論の一つか。

 

 19日公開。アナウンサーに従うならば「監視カメラ」による映像。まさかとは思うのだけれど、中国では公式にあからさまにそう呼ばれているのだろうか?

 ANNは比較的早くヴィデオを削除する傾向があるので、視聴はお早めに。

 現実に被る苦痛の大きさにもかかわらず、こうした「悲劇」はコミカルなもののように見えてしまう。当事者にとっては、まったく踏んだり蹴ったりだとしかいいようがない。しかし、こうした映像が持つ意味を考えてみると、当事者を笑いものにするようなのとは別の厭な感触を覚える。「本日の備忘録/映像の世紀、みたいな。」の「ふろく」で触れたような防犯カメラの多さのことだ。

 コミカルに見えなくもない映像やシンクホール事故の映像が、日常的な報道の中で繰り返し取り上げられることから、ヒトは一体何を感じるだろうか? 現在の中国のような国の場合は、まず防犯カメラの多さではないだろうか。自分たちが、たとえば無心に歩きスマホしているようなときであっても、防犯カメラの監視下にあるのだということを思い知らされるのではないか。カメラ映像から特定の人物を割り出すAI技術が導入されているとか、さらに進んで読唇術を学習したAIによる分析の技術が応用されつつあるとかいう噂が流れているだけで、実際にそのような技術が使われていなかったとしても、監視されていることの恐怖は実体を得たも同然となる。そして、生活空間はパノプティコン化してしまう。そういった事態が実際に生じていたって実はおかしくないのかもしれない。

 中国のように思想的な問題から監視される可能性は、今のところ例外的にしか存在しなさそうだけれど、防犯カメラとAIを組み合わせた監視技術は日本にもないわけではない。「万引きさせない“AI防犯カメラ”その仕組みとは?(2021年6月21日)」(ANNnewsCH、YouTube)などその典型だろう*3。類例は過去にもあって、「『駅の安全はぼくが守る!』~AI警備ロボットお披露目~」(東京新聞チャンネル、YouTube)*4には防犯カメラではなく、代わりに自由に移動するボディを持ったロボットが登場する。移動しても手も足も出ないロボットなので、これはいっそ防犯カメラを複数台駅構内に設置したほうがいいんぢゃないかとも考えるのだけれど、面倒なブツがウロウロしているところを見せつけるくらいのほうが不審者対策としては有効なのかな? といった細々したところはさておき、中国の防犯カメラのアレコレ、なんだかんだ云って、明日の我が国とは無縁であるという保証はない。

 

立ち読み課題図書、その他

 安部公房、もうずいぶん長らく読んでいない。またひさしぶりにまとめて読みたい気分がモソモソウズウズ。

 

 『アリエリー教授の「行動経済学」入門』の改題・文庫化らしい。いずれにしても読んでいないからなぁ。

 

 今でも《「話すように書け」というのは間違っている》系の主張を繰り返す文章指南書って絶滅しないのだけれど、そういう本って「話すように書け」という主張の内実や動機という見逃せないポイントを本気で考えたり調べたりした形跡がない。その代わり麦藁人形論法みたいなものやつまらない紋切り型でやっつけちゃっている。

 そういうあたりを見逃さずに考えているだけでも、本書は大したもんだよねぇ、と先日ひさしぶりに読み返して畏れ入っちゃった。

 

*1:cf. neanderthal yabuki(@nean)/「知人なら」の検索結果 - Twilogneanderthal yabuki(@nean)/「知り合いなら」の検索結果 - Twilog。それぞれの結果には動画へのリンクがついているが、ほとんどが現在ではリンク切れになっている。残っているのは、「土浦のコンビニ強盗 県警が防犯カメラの映像公開」(茨城新聞、YouTube、2014年)と、動画ではないのだが一応防犯カメラ映像ではある「コンビニで刃物を突き付け…強盗未遂犯の写真を公開 岡山市」(KSB瀬戸内海放送、YouTube、2018年)くらいか。いずれもマスクとサングラスと帽子で顔を覆っているから、顔を映すご利益はなさそうだけれど。

*2: たとえば、「フード被った男が物色、防犯カメラが捉えた2分間の犯行 休日の会社事務所に侵入 (21/11/02 17:30)」(メ~テレニュース、YouTube、2021年など。もっとも「フード被った男」なのでそもそも顔を隠す必要がないのだろう。あるいは「コインランドリーの両替機から金を… 男を逮捕 防犯カメラに犯行の一部始終 大阪・守口市」(読売テレビニュース、YouTube、2021年)。これも顔は隠れているし、すでに逮捕済みだからということか?

*3: ANNのチャンネルは比較的早めに削除される傾向がある。もしリンク切れだった場合は、google:AI大魔神でたしかめられたし。/ちゃんと確かめていないのだけれど、これ、たぶん「人工知能が『万引きGメン』に 被害額は4割減」(ITmedia NEWS)の発展型か何かだよね。不審者を赤枠で表示するようなあたり、そっくりなんだもん。

*4: 「本日の思いつき/The End of Violence」で取り上げたことがある。