本日の備忘録/麒麟対雷神
※ 冒頭ヴィデオは、本文とはとくに関係ございませんm(_ _)m。
「Are giraffes more at risk of being struck by lightning?」(BBC Science Focus Magazine)という奇妙な見出しに出喰わす。すんごく短い記事なので目を通してみた。
キリンは明らかに私たちより体高がある。しかも、あれだけの体高を隠すだけの場所のないアフリカの平原をのんびり歩いている。ついでに頭には角まで生やしている。もうあれはほとんど歩く避雷針、雷の狙い撃ちを待ち焦がれながら生きているようなものである。間違いなく落雷リスクはデカいに決まっている。とはいえ、こうしたことがわざわざ話題になるということは、それはそれでありがちな、ところがどっこい豈図らんやの展開が待ち受けているパタンなのだろうか、とも思えて来る。
だいたいからしてそもそも、キリンへの落雷件数といったデータなんぞが採られているものなのかどうか、採られていたとしてそのデータはどこまで信頼できるものなのか……そこいらへんからして、話はどのみち怪しいところを残したものになりそうな気がする。
というようなことを読み始める前には考えていたのだけれど……。
記事は、キリンへの落下はそもそも滅多ない出来事だと書き起こされる。ただし、それは落雷とキリンのいずれもが希少であるからに過ぎないのだという。(なるほど、なるほど)。(どこのだれが採ったデータなのかは書いていないのだけれど、)1996年から2010年までの間、キリンへの致命的な落雷の記録は5件あるのみだ。その期間中のキリンの数はざっと14万頭。したがって1000頭当たりの年間死亡数は約0.003頭となる。
これだけを見れば、かなり少ない数であるように思える。ならば、キリンは落雷に出喰わしにくいといえるのだろうか?
そこでヒトに関するデータとの比較が持ち出されることになる。
That's a very low risk, but it's still more than 30 times the equivalent fatality rate from lightning in humans in the US.
という結論。つまり、キリンが落雷にヤラれちゃう危険というのは、アメリカ人が落雷にヤラれちゃう危険の30倍に上るというのだ。ほへーっ!
もちろん、あらかじめ挙げたデータの信頼性については留保の余地がある。あるとはいえ、現実にはキリンへの落雷はデータより多いと予想されるだろう*1。それに対してアメリカ人の被害者数はこれ以上の数に大きく膨れ上がる可能性は少なそうだ*2。つまり、キリンの負う落雷リスクがヒトの30倍を上回っている可能性はあっても下回っているとは考えにくいのではないか。もちろん、ヒト側のリスクが小さいのは体高のような生まれつきの条件ばかりではなく、堅固な建築物に守られた結果、つまりは文明のおかげさまって部分も大きそう。だから、生物種の比較としてはフェアぢゃないかも。けれど、何にしても現実問題として、キリンはヒトより大きな落雷リスクを抱えていると考えて良さそうだ。
結論としては、ヒトとの比較で見る限り単位個体数あたりの落雷による死亡数はキリンのほうが、ほぼ間違いなく多そう。ただし、他の動物たちとの比較がないので、キリンが特別に落雷で死亡する動物であるかどうかは確定出来ない。ゾウのように体格の大きいもの、ライオンのように比較的には小さいものあたりならば、雷による死亡例の報告などありそうだが(ないですかね?)*3、もしそのへんがあれば、体高や体型と落雷による死亡率の関係について考える緒がつかめるかもしれない(んぢゃないかな)。というような感じなのだろうか。
ふろく
上で読んだ記事には「Published: 12th November, 2021 at 11:00」とあったので、すでに日本語化された記事も出ているかもねっというわけでググってみたら*4、あらまびっくり、「キリンと雷さま」は結構古いネタなのですね。というわけで、結果は記事の公開日付順に並べ替えておいた。
- Who, what, why: Are giraffes more at risk from lightning? - BBC News
2010年11月11日付記事。元記事がBBCで取り上げた報道のまとめみたいな感じなので、BBCの中で検索して見つけた。しかし、まだ読んでいない\(^o^)/
- 「キリンってほかの動物にくらべてカミナリが落ちやすいの?」その疑問にお答えします : カラパイア
2017年7月3日付記事。読んでいたら《それはそれとして、キリンへの落カミナリに関して具体的な数字は本当はない》(強調引用者)なんて表現が出て来た。何かの流行り言葉とかでなければ*5、間違いなく「
落雷 」の誤りだろう。けれど、変換後の結果が「落カミナリ」ってことは、「らくかみなり」ってなふうに入力なさっていらしたということなのか。この「誤り」はその後も文中で反復されている。しかも「落雷」も用いられていたりして、ひょっとすると万が一、専門的には「落カミナリ」と「落雷」との間には意味・用法の違いでもあったりするのだろうか。って、まさかねぇ。で、結論としては、《ほかの動物と比較したデータがないので、実際のところはよくわかっていない》のだそうだ。
- CNN.co.jp : キリン2頭、雷に打たれて死ぬ 米動物園
2019年6月12日付記事。落雷そのものは5月初頭にあった。今回の疑問に応えるような記述はない。ただ《CNNの気象の専門家によれば、1度の落雷で2頭のキリンが死亡した可能性が高い。同じ牧草地で別々に雷に打たれる確率は非常に低い》のだそうな。それはそうだろうなぁ。
- Giraffes Are Basically Fuzzy Lightning Rods, New Research Suggests
- Are Giraffes Doomed to Be Struck by Lightning Because of Their Height? | Smart News | Smithsonian Magazine
2020年9月24日付記事。読んでない\(^o^)/。
- ”落雷が直撃したキリン”の遺体を発見!首の長さが原因で「避雷針」になった可能性も(南アフリカ) - ナゾロジー
2020年9月26日付記事*6。
キリンの体高は落雷の危険を増す要因になりそうではあるけれど、そうだと断定は出来ないという結論。
他にもいろいろゾロゾロ記事は見つかる。ただし、結論は英文和文ともに、ありそうな話だけれど断定はできないかなぁ、みたいなところみたいだ。うーん。
立ち読み課題図書、その他
郡司芽久(キリン研究者) (@AnatomyGiraffe) / Twitter、twitterでもご活躍の著者さん。クリスマス向けということなのかどうか、『ジュニア版 キリン解剖記――キリンの首の骨が教えてくれたこと』(ナツメ社)が12月13日にリリースされる。オリジナル版も売れているということですね。
シリーズ最新刊になるのかな。
*1: 稀ではあるが、時折落雷によって死亡したキリンのニュースが取り上げられることがある。実際に数えたことはないが、ここで上がっている数字は、実感に合ったもののように思える。google:キリン 雷などでググってみてもだいたいそんな感じ。
*2: 落雷でお亡くなりになったアメリカ人を扱ったニュースなんてほとんど見かけた記憶がないくらい。日本人でもなかなか思い出せない。
*3: そういえば、牧場への落雷のせいで、放牧していた牛が何頭もまとまって死んだというような報道なら目にしたことがあるなぁ。そういうのも頻度によっては、キリン以上に落雷リスクは大きいといえるかもしれない。
*4: ゲームは滅多やらないのでよく知らなかったのだが、モンハンねたのページがむやみに引っかかって、いやはや、やれやれ。モンスターハンターではキリンが重要なキャラクタになっているのですか? ググってみるなら「-モンハン」「-モンスターハンター」をお忘れなく。
*5: 案外そういうことってありそうな。ないですかね?
*6: 本記事執筆時「最終更新 2021年1月27日」となっている。