本日のクラッシュ!/Building collapses in Baltimore after cars collide in fatal car crash

 警察に追われる盗難車が他の車と衝突したうえ、さらに建物に激突した結果建物が崩壊して歩行者が死亡するという事件の映像をメリーランド州司法長官事務所が3月2日に公開した。事件(the incident)そのものは2月8日に発生したとのこと。どういう理由で公開が遅くなったのかは、報道からは確認出来なかった。

 暴走や衝突を捉えた防犯カメラ映像は、すでにありふれたものとなりつつある*1。しかし、ことが建物の倒壊にまで至るとなると、そもそもの出来事が珍しいのだから、滅多見られるものではない。「与太」の「クラッシュ! カテゴリー」でも、車の衝突で建物が破壊される映像となると「ここのところのクラッシュ!選集」で冒頭に取り上げた中国の事例がかろうじて見当たる程度だ。おまけに紹介した映像の公開元がRussia Todayであったために現在閲覧出来ない*2

 もっとも、車が突っ込んで来なくても建物が突然崩壊することだってあるわけだけれど。

 天井の漏水を吸い込んだ落下物は11キロ強の重量があったとか。「MBTA passenger inches away from ceiling tile collapse speaks out」(WCVB Channel 5 Boston、YouTube)では、危うく難を逃れ、淡々と階段を昇っていった女子大生さんの話も聞けたりする。

 このへん、たぶん他人事では済まないんだよなぁ(e.g. google:地下鉄 落下)。

 

φ(..)メモメモ

 事件そのものはさておき、ここで気になったのは、YouTube再生ページの概要欄中の「CitiWatch」という名称だ。「OAG」はメリーランド州の司法長官事務所(Office of the Attorney General)のこと(でいいかな? Deepl先生にお伺いを立てた訳語ではあるのだけれど。正確なのを知らないので、「メリーランド州当局」とでもしておくのが無難か)。

The footage was retrieved from a police officer´s body camera as well as a CitiWatch surveillance camera, the OAG said in a press release.

強調引用者

 ググってみると「CitiWatch Community Partnership Overview」(Baltimore Police Department)、バルチモア警察のページに行き当たる。

CitiWatch is an innovative public-private partnership allowing residents and small business owners to assist the Baltimore Police Department and other public safety agencies by sharing important video footage. ……

 住民や中小事業所のオーナーと地元警察が防犯カメラ映像の類を共有する協定を結んでいるとかなんとかいうことか。

 昨今、防犯カメラ映像が事故や事件の調査に果たす役割の大きさを考えると、そのような協定は他にもありそうだし、今後増えてゆく可能性はあるだろう。我が国では映像の共有に至るような協定の話は耳目にしないけれど、「防犯カメラ無償設置協定を締結 全国初、青森県警と大和ハウス」(共同通信)のような話は出て来ている。

 青森県警は21日、ハウスメーカー大和ハウス工業北東北支社と防犯カメラの設置促進に特化した協定を結んだ。新築住宅に同社が防犯カメラを無償設置する内容。県警によると全国初で、撮影データや設置者の個人情報提出の義務はないとしている。

 撮影データの提出義務はないといっても、実際に事件が起きた場合、警察から提出を求められて断るヒトはなかなかいないのではないか。提出されないことが多いとなれば、防犯カメラに期待される犯罪の抑止効果も小さくなる。提出への確信があるからこそ《県警側は空き巣や強盗などの犯罪抑止につながると期待し、周知に努める。県警は2023年末までに県内3千カ所の設置を目指している》ということにもなるのだろう。

 青森の件がどうなるかはさておき、そういうことを好意的に見る傾向は、以前とは比べ物にならないくらい大きくなっていそうだ。たとえば、宮台真司襲撃犯捜査の難航は、現場と周辺の防犯カメラ数が少ないためだとされるし(「宮台真司襲撃「ニット帽180センチ男が捕まらない」理由」(文春オンライン)*3、防犯カメラがあれば保育士による幼児虐待も解決できるのに(「園児暴行疑い保育士2人書類送検 富山、防犯カメラに一部写る」(共同通信)*4、カメラがないと面倒が増えるし(「静岡の園児虐待、たびたび目撃 同僚証言で被害者特定、映像なし」(共同通信*5)で、そうした話が広く報道に上るようになれば、物騒な強盗(未遂)事件報道も一方で増えているのだから、以前のような、たとえばプライバシー侵害を危ぶむような声はほとんど見かけなくなっている*6のも宜なるかなというところか。

 ここ数年のアレコレを眺めていると、このへんはもう留めようのない傾向なのだということになっちゃったのかなぁ。治安の確保それ自体は大切なことだ。けれど、それには防犯カメラ運営者に倫理観がちゃんと備わっていることや社会の原則の遵守に不安がないという前提が確保されていなければならない。しかるに昨今の国会なんぞをうっかり眺めてしまうと、もはや近代国家の体をなしているんだかどうだかさえ怪しいみたいぢゃないか。時の総務大臣が当時の総務省のやっていることが信用できないと語りつつ、野党議員に総務省が信用できることを証明せよと主張している。どうも冗談ではないみたいだ。いやいや、そんなことはさておき、一部の政治家の恣意によって、言論の自由に関わる法律解釈が変更されたというトンデモナイ話。G7広島サミット直前だというのに、国際的にいい恥っ晒し、ここのところの近現代からの日本の脱落っぷりに輪をかけるミットもグローブもない国辱っぷりとかなんとか思えて来ちゃうとかなんとかいうあたりはさておき、国家のオツムがクラッシュしているテイタラクが罷り通っているようでは、防犯カメラの運営に不安を感じたからといって、バチは当たるものでもないんぢゃないか。うー。

 

立ち読み課題図書、その他

 3月15日発売予定。

 

 

 こういうの、何年かごとに改訂版が出るといいよね、たぶん。90年代初めに立花 隆と利根川 進の『精神と物質』に引かれていた当時の高校生物の教科書が、自分の学んでいた生物とずいぶん様変わりしていた様に驚いたことがある。理科に限らず歴史の教科書あたりも、政治的左右の悶着を傍らに措くとしても、自分の学んだのと異なる細部があるそうぢゃないか。そういうとこいらへんもあるとありがたそう。

 

 

*1: たとえば、これを書いている今も、「【チリ】高速道路の料金所に車が衝突…時速220キロ減速せず」(日テレNEWS、YouTube)が公開されたばかりだったりする(2023年3月6日)。

*2: 改めて探してみると、「Five Dead after Truck Crashes into Homes in Northwest China」(CCTV Video News Agency、YouTube)で同じ事故(the accident)を扱っている。不謹慎ながら、冒頭10秒は必見。

*3: 実際には、防犯カメラ映像も結構な量になっていたらしいという話もある。cf. 「宮台真司氏襲撃事件 被疑者送検を受けて」(videonewscom、YouTube)中の宮台発言。比較的冒頭。4分から5分過ぎくらいらへんだったっけか。

*4: 昨年12月6日付記事。共同通信は比較的早めに記事を引っ込めるので、確認はお早めに。

*5: すでにリンク切れ。たぶん昨年12月の記事、1つ前のリンク先記事とほとんど同時期だったんぢゃないかな。手許のメモには「虐待行為を捉えた防犯カメラはなく、県警は同僚保育士らの目撃証言に基づき逮捕容疑や被害園児を特定。保護者に説明した上で被害を申告させた。県警は5日、3人を送検した」と記事の抜粋がある。

*6: まったく見ないわけではない。たとえば、「熊本駅周辺に防犯カメラ20台 熊本県警『防犯力を強化』」(熊本朝日放送 KAB NEWS、YouTube)中(40秒過ぎあたりから)、「プライバシーの問題を不安視する声」なるものがキャプションとともに手短にアナウンスされたりはする。しかし、それが具体的にどのようなものか、住民運動はもちろん、街頭インタヴューの類さえ取り上げられるわけではない。何となく話の都合上挿入された定型句みたいな気もして来ないか?