カッコつけたり、つけなかったり

 またしても、どうでもいい話を一つ。

 2月11日、老舗米菓メーカー・三幸製菓の新潟県北部にある荒川工場で起こった火災事故。同社の従業員など複数の関係者が、防火体制に問題があったと「週刊文春」の取材に語った。

 三幸製菓は煎餅の「雪の宿」や「ぱりんこ」で知られ、亀田製菓に次ぐ業界第2位だ。現在は創業家佐藤元保氏がCEOを務める。

「焼け跡にはバイトの女性4人と、従業員とみられる男性2人の遺体があった。女性は防火シャッター前で見つかっており、逃げ遅れたと思われる。アルバイトへの避難訓練をしていなかった点も問題視されている」(社会部記者)

6人死亡 三幸製菓は「火災事故の常習犯」従業員の告発 | 文春オンライン

 最終的に6名もの犠牲者を出した火災がどうでもいいことだ、というのではもちろんない。ただ取り上げたいのは火災のことではなくて、《三幸製菓》とカギ括弧との取り合わせのこと。

 どういうことか。

 これを書いている現在(2022年2月24日)、リンクが今も辿れるものの中からテケトーに選んだ報道を以下に挙げてみる。一通り目を通していただければ、どういうことかも、おおむねご理解いただけるものと思う。

 網羅的な調査ではまぁーったくないので、ここで何かの結論を出すつもりはないのだけれど、カギ括弧、割といい加減につけたりつけなかったりするのかな、という印象。ごく一部に関して云えば、漢字の連続による読みやすさの低減を恐れ、《三幸製菓》を際立たせるために用いたのかなと思えるものもないではないけれど、それはこちらの忖度に過ぎないしなぁ。

 

 僕自身、括弧類の使い方は、ごく標準的な使い方以外では揺れて定まらないところがあるのは自覚していて、だからし他人様ひとさまの使い方にケチをつけるつもりはないのだけれど、それにしてもどんなものなんですかね、という気がしないでもないが、また例によって何かの気の迷いなんだろう。

 

ことのついでに……

 そういえば、「つげ義春さん『自分なんかでよいのだろうか』 芸術院会員選出に驚き」(朝日新聞デジタル)に引用されていた文化庁の資料中でのカギ括弧もムズムズ違和感を醸すものだったのだった。

 文化庁の発表資料では推薦理由について、「人間存在の不条理や世界からの疎外を垣間見せる『文学的な』表現によって、自己表現としてマンガを捉える青年たちに絶大な影響を与えた」「美術と文学の世界からも高い評価を集め、その作品を読み解く試みを誘発してマンガ評論の発展にも影響を及ぼした」などとしたうえで、「まさに『芸術』としてのマンガ表現において日本を代表する作家」としている。

 発表資料からの引用がカギ括弧で示されているために、原資料中では普通のカギ括弧が用いられていたであろうところが二重鉤括弧になっている。これを原資料と同様に示せば《人間存在の不条理や世界からの疎外を垣間見せる「文学的な」表現によって、自己表現としてマンガを捉える青年たちに絶大な影響を与えた》、《まさに「芸術」としてのマンガ表現において日本を代表する作家》となるだろう*1。この場合のカギ括弧は、どういう用法と考えるのが妥当なのだろう?

 実のところ、この場合、カギ括弧はいらないと見るのが適当であるように思える。

 

 一般的なカギ括弧の用法はだいたい以下のようなものである。

  1. 会話文

     発言内容をカギ括弧で括る。説明しなくてもいいよね、このへんは。

  2. 引用文

     比較的短い引用であればカギ括弧で括って文中に書き込んぢゃうパタン。

  3. 皮肉・厭味

     世に謂うところの……という感じで用いる。

  4. 著作物名

     これも説明の必要なし、かな。著作物というより出版物というとこいらが重くみられる場合には『』を使う。e.g. 萩原朔太郎「殺人事件」『月に吠える』所収

  5. 強調

     うーん、世の中ではそう云われるんだけれど、ストレートな強調に用いられることは滅多にない。大学入試の現代文なんかでも、用法が問われてこれが正解になるパタンなんてまずない。というかまぁ用法を問う問題がそもそも激レアっちゅうところですけれど^^;。強調表現ならば、太字にするか斜体を用いるかというのがまず採るべき表現ぢゃないか。さもなければ傍点を付す。HTMLだって強調表現で「em」なり「strong」なりのタグ*2を用いると主要ブラウザでは斜体と太字で表示される。

  6. 商標名

     これも挙げられることがあるけれど、それほど日常的に目にすることってないんぢゃないかなぁ。いちいち括らずそのまま書いちゃうのが慣例になっていないかしら? 《三幸製菓》のカギ括弧もこれを意識したものも中にはあったんだろうか?

 発表資料中のの《「文学的」》とか《「芸術的」》とかは一体どの用法に当てはまることになるんだろうか。会話文・引用文・著作名・商標名でないことは即座に判断できる(よね?)。すると残るは皮肉・厭味か強調かということになる。推薦文だから皮肉・厭味であるはずはなかろうということで、まぁ強調なんだろうと忖度するよりないのだろう。けれど、ここってそういう強調がことさら必要なところだろうか?

 と、そんなこんなで、発表資料のカギ括弧、どうにも皮肉・厭味の含みをにじませているように見えて仕方ない。そのへん、無理矢理の云いがかりでもないつもりなんだが。

 

 とはいえ、やっぱりそんなことを気にして文句を書きつけてみたところで、何の足しにもなりゃしませんね\(^o^)/。

 

 3月15日刊行予定。

 約物の使い方について、どの程度の扱いがあるのかは知らないのだけれど、まったく扱わないというわけにもいかないんぢゃないかと思う。

 

立ち読み課題図書、その他

 3月3日刊行予定。

 

*1: 「報道発表 令和3年度日本芸術院会員候補者の決定について」(文化庁、PDF)で確認。同時にマンガ部門で選出されたちばてつやの推薦理由では「あしたのジョー」についてのみ作品名を示すカギ括弧が用いられているだけだった。余計につげ義春の推薦理由中のカギ括弧が気になってくるぢゃないかぁ。うー。

*2: 「em」は、emphasisのem。「strong」はまんま。