小論文対策、時間がないならPREP方式のメモでもとっておきますかね

PREP方式のメモをとる

 センター試験前ともなると、小論文対策に全然手が回らなくなっちゃう。でも、小論文対策の不足に大きな不安を抱えているという受験生って多い。時間がとれないんだからしょうがない、だけどやっぱり気になる——そういう人はPREP式の短い文章を書いて、頭の回転具合をキープしておけばいい。

 受験生でなくったって、いくらか理路の通った文章を書きたいと考えている人なら、その基礎訓練みたいなつもりでPREP方式のメモ、文章作成にチャレンジしてみるのと、結構有益なんじゃないかと思う。

「PREP方式」という言葉に馴染みのない人もいるかもしれないけれど、一部の公立中学なんかでも指導されている*1短い文章を論理的にわかりやすく書く方法のこと。手っ取り早くいえば、三角ロジックとパラグラフライティングを組み合わせた書き方のことだ。

 

 PREPでは以下に示すような順序と構成で文を書き進める。長い文章を書くのであれば、それぞれに1段落を当てることになるけれど、手短な思考メモとしては、それぞれに1文ないし2文程度を当てればいい。それで200〜300字程度、1段落の文章にしてみるという程度のことならさしたる時間も取らないだろう。過去問なり気になる話題なりについての自分の考え方を、そういう形で1日もしくは2日に一本まとめてみる。あるいは、自分の考えなんぞ書く暇もない(なんてことは、ホントのところ滅多あるわけないんだけれどね)という場合には、現代文の評論問題なり過去問の課題文なりを、この形に構成しなおしてまとめてみる。

  1. point……主張
  2. reason……理由
  3. example……事例
  4. point……主張

 面倒くさければ、「主張」、「理由」、「事例」を語句レベルのメモにするだけでも、ま、いっか。何もしないよりはずっといいと思う。文章にまとめるにしても、「理由」と「事例」に関しては、自分の好みで順序を逆転させても構わないだろう。で、センター試験を終えたら、たまったメモの詳述化を試みてみるべし。それぞれの部分を1段落の長さになるように詳述すれば、600〜800字程度の小論文は比較的簡単に仕上がる。

 

 できれば、同じようなメモをとっている友人と、同じ問題に対するメモを見せ合って、相互に軽いツッコミの入れ合いなんぞができると理想的なんだが、なかなかそいつはむずかしいかなぁ。「主張」そのものではなくて、「理由」「事例」部分でそういう遣り取りができると、自分の考察に不足しているものがはっきり見えてくるもんだ。

 

三角ロジックとPREP方式

 知っている人には問題なくわかるだろうけれど、「主張」「理由」「事例」はそれぞれ三角ロジック*2の、「主張(クレーム、Claim)」「理由付け(ワラント、Warrant)」「客観的事実(データ、Data)」に相当する。「主張」を冒頭と末尾で反復するのは、パラグラフ・ライティング*3の段落の仕上げ方と同じだよね。

 

 三角ロジックについては、Wikipedia日本語版「IMRAD」の項に出ている説明がわかりやすい。PREP方式の、「主張」「理由」「事例」がどんなものかもだいたいの見当はつくと思う。

……比較的ポピュラーな『名探偵コナン』の場合で考えてみよう。この作品では、まず、何か事件が起こる。次に江戸川コナンは(誰かの口を借りて)「犯人はお前だ」というつまり、これが結論である。しかし、犯人とされた人間はだいたいとぼける。しかも、高木刑事あたりにいたっては「まさか」と異を唱える。そこで、コナンは証拠物件を挙げるが、これだけでは、読者もよくわからない。つまり、根拠となる事実というのは、それ単独では結論を支持しているかどうかはおおよそわからない。そこでコナンはその証拠物件が、証拠物件たり得ていることを、多少強引ながらも延々と説明していく。これが、推論過程である。

IMRAD - Wikipedia「IMRADと論理の三要素」

 「こいつが犯人だ」=「主張」、「証拠物件」=「事例」、「理由」=「推論過程」と整理できるでしょ? 上の説明の順序にしたがってまとめると、こんな感じかしら。PREPじゃなくてPERPになっちゃったけど。

 こいつが犯人である(P)。それはこの証拠をみればよろしい(E)。この証拠はかくかくしかじかといった具合でこいつが犯人である疑いの色濃いことを証している(R)。だからして、こいつが犯人なのだ(P)。

 より長い文章、より厳密なロジックを求める難関校の小論文対策が必要なら、あるいは三角ロジックの論理性の甘さが気になる人なら*4、トゥールミン・モデル(Toulmin model)を勉強してみるといいかも。ネットだとちょっとヒドイ説明もあったりするんで*5、身近に詳しい先生がいらっしゃるといいんだけれど。書籍でも受験生向きってのはなかなかちゃんとしたのがない。ネットで、ということになると、The Toulmin Project Home Page あたりが簡潔で便利だし信用できる。まぁ英文なんでってのがアレだし、高2くらいから読み始めるというのが得策なのかもなぁというところなんだけれど、意図的に易しめの英語で書かれているみたい。習熟度チェックの試験問題付き。そこいらへんが苦にならないようなら、チャレンジしてみる値打ちはあると思う。英語がよほど苦手だというのでなければ、見かけほど大した苦労はないと思うよ。残念、現在リンク切れ。まだ中身をろくに検討していないし、英語のレヴェルはちょいと上がっちゃうのだけれど、とりあえずGuide: The Toulmin Methodhatebuにでも当ってみますかね?

 

 PREP方式の詳細についてさらに知りたければ、各自ググってみるべし。

 ビジネス系の記事が多くてげんなりするかもしれないけれど、逆にいえば、こういうロジックの構成は現実に通用するもんだということでもある。使い捨ての受験用テクニックみたいなもんとは多少は違うってことだ。

 

議論のレッスン (生活人新書)

議論のレッスン (生活人新書)

 

 受験と直結したもんぢゃないけれど、三角ロジック+αあたりを知るには有益かも。

The Uses of Argument

The Uses of Argument

 
議論の技法

議論の技法

 

 トゥールミン・モデルのトゥールミン*6が書いた謂わば原典みたいな本。だれかさっさと翻訳してくれればいいのになぁ。ぶー。2011年になって翻訳も出たのだけれど、結構読みにくい。文章の書き方本でもないことだし、受験生にはあんまりお薦めしない。

*1: 家庭教師先で教え子くんから教わった話だからガセぢゃないよ。為念。

*2:cf. google:三角ロジック

*3:cf. google:パラグラフ・ライティング

*4: 世の中には三角ロジックで充分に論理的に議論が尽くせるかのように書かれてるアレコレが出回っていたりするけれど、三角ロジックでは確証バイアス(confirmation bias)が避けがたい。また理由付けそのものの正しさに裏付けが充分あるのかの検討が必要になることだってある。三角ロジックに三角ロジックを重ねるだけでは、これらの問題は充分にはクリアされない。

*5: たとえば、三角ロジックがそのまんまトゥールミン・モデルとして扱われていたりするようなヤツとか。

*6: Stephen Toulmin(1922-2009)、昨年暮れに亡くなったんだよなぁ。Toulminの名前をさんざ利用してきた連中、全然取り上げもしていなかったけれど。