本日の村上春樹/日本近代文芸批評と読書感想文
村上春樹ってやっぱ人気あるんだなぁ、というような何を今さらなことを改めて感じたりする。「秘伝・読書感想文克服法 - 村上さんのところ」(村上春樹 期間限定公式サイト) *1が、今コレを書いている時点ではてブが145もついている。村上春樹の書いた記事が145ユーザからしかブクマされないのかと感じるヒトだっているだろうけれど、中身そのものは読書感想文のごく簡単なコツに触れただけのものだもの、実はそのコツ自体も新味があるものでもない。それでも、145集まるというのはそれはそれでやはり大したことだと思うなぁ。答え方も愉しいし。
で、そのコツというのは、
よくぞ訊いてくれました。僕は昔から読書感想文を書くのが得意でした。読書感想文を書くコツは、途中でほとんど関係ない話(でもどこかでちょっと本の内容と繋がっている話)を入れることです。それについてあれこれ好きなことを書く。そして最初と最後で、本についてちょろちょろっと具体的に触れる。そうするとなかなか面白い感想文がすらすら書けます。やってみてください。
というもの。これだけのコツの説明で面白い感想文、だれもがすらすら書けるかどうかは微妙なところなのだけれど、でもコツの大筋を示したアドバイスとしては大過ないものだと思う。
気になったのは、そちらではなくてブコメのほう。たとえば、
秘伝・読書感想文克服法 - 村上さんのところ/村上春樹 期間限定公式サイト
このセオリーは聞いたことあるけど、なんでだろう?ネットのブログでもそういうのはあったと思う。でも別に読書感想文の面白さに直結はしないと思うんだけど。
2015/04/24 11:30
というようなの。これは至極もっともな疑問だし、そこいらへんわかんないまんま「関係のない話」を織り込んだとして、果たして、たとえば学校の先生のお眼鏡にかなうかどうか微妙なところが出て来る。今回の質問者さんみたいに社会人さんの場合、とくに出版社の社員さんともなれば、たぶん得るところ大だから、上の回答は充分なんだろうなと思う。でも、このコツだけで児童生徒くんたちが先生にウケる感想文が書けるとは限らなさそう。
と、あれこれもったいぶってもしょうがないので書いちゃうと、読んだことをただの
本を読んでなるほどと思ったとの旨だけ書いたって、その「なるほど!」には深みも説得力もない。「なるほど!」と思った中身が自分の経験を通して納得されたものならば、その「なるほど!」には言葉の上だけではない深みと説得力が出て来る(かもしれない)。で、非常にしばしば、そういう「なるほど!」は、自分の失敗に照らしてあらわれるものだ。手痛い失敗があったからこそ、そういう失敗を回避・克服するような示唆やアイディアには「なるほど!」と膝を打つことが出来る。そこいらへんの話が「ほとんど関係ない話(でもどこかでちょっと本の内容と繋がっている話)」として示せるといいというわけだ。自分の失敗談は自虐ネタの語りのように比較的微笑ましい話に仕立てやすい。だから、概ねすらすらと書けておまけに面白く仕上がる可能性も出て来やすくなる。
失敗談でなくても、自分の関心事、自分がよく知っていて書ける事柄に関連づけた語りを考えれば、とにかく読後の寸感ではなくて、「自分の問題意識」に絡めながら本を読んだというふうに見える文章が出来上がる。知っていることなら、無理やり書くべきことを案出せずともすらすら書けるだろうし、ホントに関心事であれば書くこと自体愉しめるかもしれない。こういうとき、失敗談でも関心事でも、本のほうとあんまりベタな関係があったのではつまらない。関係はあったとしても、すぐさま結びつかないもののほうが、自分の問題として捉える力はアピールされるし、そこいらへん、なんだっけか転移とかなんとかいう知的能力の冴えとしてだって評価されるポイントになる。
ホントはそこいらへんがゼツミョウな文章の「転」として示せると本格的に面白い感想文になるんだろうけれど、とにかくさしあたりのウケを考えてなら、多少ベタな「半転」や「転抜き」でも一応の必要に応える程度の感想文は出来ちゃう。何にしても自分の側の何かを語るというのは、少なくとも学校で書かされる読書感想文では決定的に重要なことみたいだ。たとえば、「入賞作品紹介」(青少年読書感想文全国コンクール) にある作品に目を通してみれば、このへん一目瞭然だと思うなぁ。何がしかの自分語りの伴わない感想文はないといっていい*2。
村上春樹が正確にそう考えて上の回答を語ったかどうか、そんなもんわかりませんけれど\(^o^)/、こういうアプローチがよく語られてきたのは、おおよそ以上のような案配だからだといっておいても、とんでもない間違いってことにはならないんぢゃないかな*3。
こういう感想文の書き方って、他人様の作品を出汁にして自分のことをコブシを回して歌い上げる昔懐かしい日本近代文芸批評の衣鉢を継ぐ書法であると云うことだって出来なくもないものなのかもしれない、とかなんとか云えばもうちょっともっともらしくなったりするかしら、しないかしら。まぁどっちでもいっか\(^o^)/。
大筋として村上春樹の回答は、役立てられるヒトの多そうなものだし*4、役立てる折がなくったって回答として愉しいぢゃないか。ちょびっと気になるのが結びの段落、高校時代に感想文を代筆して昼飯をおごってもらったとかなんとかいうあたりだけれど、これもナントカ文書偽造みたいな不正の告白というよりは、感想文なんて脂汗を流し呻吟してまでして書くもんぢゃないんぢゃないかって含みがあるものとして読めば、そうそう目くじらとか腹とかを立てて云々するようなものでもないと思う。といっても、立てるヒトはやっぱり立てちゃうんだろうけれど/(^o^)\
ホント云うと、とくに子供くんの読書感想文って、別に先生ウケを狙うことなんて考えないで構わないんだと思う。だからといって、とりあえずのご挨拶程度のものを出せばいいって感じでお手軽テケトーに済ますのも、実はもったいない。もっと、何というかポトラッチな*5読書感想文への取り組みがあってもいいんぢゃないかと思う。ここいらへん、今は読めない本家「与太」に書いたんだけれど、もう一度同じことを書くのも面倒臭いしなぁ。また気が向いたときに改めて書く、かもしれないということにしておく。
読書感想文、今年の課題図書
そういえば、もう発表になっていたのだった。
小学校低学年。
同じく小学校低学年。BL出版なんていうと、なんだかその手の専門出版社みたいに見えちゃう名前だけれど、そんなことはないのだな。
これまた小学校低学年。むかしは課題図書ってもっと少なくなかったっけか。カスタマーレビューを見ていると、《原書の魅力が台無しです》なんていうのもあって、ホントのところは知らないけれど、うーん、なんだかありそうな話だなぁ、と思えてきた。低学年だと原書との読み比べで感想文を書くというわけにもいかんだろうけれど……。そういうのもおもしろそうではありますね*6。
で、これも低学年。むかしはせいぜい2冊ずつくらいしか指定ってなかったんぢゃなかったっけか? と、それはさておき、これなら読むだけぢゃなくて出歩いて感想文ネタを育んでいけそうで、案外狙い目かもなぁ。
小学校中学年。塩野米松にしてもはまのゆかにしても、どこかで見かけた名前だなと思ったら、あぁそっかという方たちでしたね。
小学校中学年。「パオズ」は包子のこと。戦後70年ネタに絡めて……とか、凡庸なおっさんたるアテクシなんぞは考えてしまうのだけれど、中学年だとどうなるかなぁ。うーん。
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小学校中学年。こちらは、難民問題に絡めて……ってところなのかな。
小学校中学年。アマゾンにある商品説明だけだと、ちょいとよくわからない。
小学校高学年。
小学校高学年。理系絵本ということみたい。こういう装丁とかだと、小学校5、6年、手に取るのに抵抗を覚えたりしないかしら。がんばって中学年くらいに読ませたいところぢゃないのかしら。そうでもないのかな。うーん。
小学校高学年。商品説明を読んでいると、読書感想文を書かせる学校を挑発でもしているのかしらと思ったり思わなかったり、なお話だったりしているのかしらという疑問が湧いてくる(^_^;)。
小学校高学年。スポーツものはパス。
中学校。ファンタジー。
中学校。ビクトリア朝のロンドンを舞台にくりひろげられる感染症をめぐる物語。
中学校。昨年だったらウケたんだろうになぁ。とはいえ、この際ついでに塚本勝巳の名前も覚えておかれるとよろしいですね。
高校。
高校。Kindle版もあるけれど、感想文を書き上げるための作業のことを考えると、紙の本のほうが今のところ、まだまだ便利ぢゃないかしら。
高校。バイオロギングから見えてくるもの、というような話らしい。Kindle版もあるけれど……。
読書感想文は別に課題図書を取り上げなければならないってことにはなっていない*7。だから、上記の図書にかぎらず自分で選ぶことができる。国語系の塾なんかで「あてがいぶちの読書がぁ〜」みたいなデマで感想文を批判しているようなスットコどっこいがあったりするから、余計になんだか課題図書で書かなきゃいけないというような思い込みが出来ちゃってるみたい。でもそんなことはないんだから、選書からじっくり考えるっていうのが、ホントは読書感想文でいの一番にあっていいこと。もちろん、もう取り上げたい本なんか決まってるぜってなことだってあるかもしれない。それで押し通しちゃえばいい。そういう本ほど真面目に取り組むと苦労は増えるとは思うけれど。いいぢゃん、それはそれで。
*1: 「期間限定」とあるとおり、書籍化にともなって遠からず削除されるみたい。「サイト自体は2015年の3月末くらいまで公開する予定」なのだそうな。って、もう過ぎてるぢゃないか。ご覧になるなら今のうち。/【復旧時註】すでに削除された。
*2: 現在のリンク先にあるのは第60回コンクールのものだけれど、このへんの事情は60回が61回なり62回……n回なりに増えていっても、あんまり変わらないんぢゃないかなぁ。ついでながら、「優秀作品」を読むと、《冒頭で粗筋をまとめてその後感想を綴る》とかいう俗流感想文構成作法によって仕上げられた作品が一編もないことがわかる。このへんもついでながら、頭に入れておきたいこと。俗流作法ははなっから下手っぴぃ感想文を目指す書き方にすぎないんぢゃないかと思うなぁ。別に「優秀作品」的なものがいいとか好きだとかいうんぢゃぁ必ずしもないんだけれど。
*3: なんて書くと、きっと「とんでもない間違いだ」って云うヒトが出て来そうだけどさぁ\(^o^)/
*4: もちろん、ここいらへんは書き手くんの資質によって多少のアレコレは出て来る。失敗談が微笑みを誘うのは、あくまで自己相対化があってのこと、そこいらへんがすっ飛んでるヒトが書いちゃうと結構厭味な自慢話になっちゃうってケースもある。また、どっぷりと失敗の記述の泥沼にはまりこんぢゃうタイプのヒトの場合、どんよりと暗い話ばかりにもなりかねない。軽いのを書くのが苦手なヒトには、生真面目真摯一直線路線の書き方もあるけれど、今回はそこいらへんには足を突っ込まない。《すらすら∧おもしろい》感想文のコツというのとは、どうしても違ってきちゃうもんね。
*5: 思いつき的にいい加減な言葉を選んでいるので、ここでは意味に思い悩まないでくださいましm(_ _)m。cf. google:ポトラッチ
*6: ただし、このコンクールの応募規定で、日本語以外の言葉で書かれた本は対象外ってことになっている。メインになるのは日本語版で、あくまで比較対象としての原書というふうにすればいいんぢゃないかとは思うけれど、まぁ成績上位での入選はむずかしいというアレになりそうかなぁ。
*7: cf. 「第61回青少年読書感想文全国コンクール応募要項」(全国学校図書館協議会) 。「自由読書」ってのは、別に今年から始まったわけではない。もう大昔からそういうものなのだ。