4分後の世界

他人様ひとさまtweetsで毎度失礼。

 ただ、今回は他人様の褌に便乗してどうこうという話を書こうというわけではない。Duck and Cover式の対応は批判的に捉えられるべきものだという点はすでに2度エントリにした*1。「滑稽な行動」といえばまったくその通りかもしれないとも思う。でも、この2つのエントリに登場する写真、なんだかおかしくないだろうか。早朝のアラートからたった4分、特定の建築物にヒトビトが老いも若きもそれなりの数、集合しDuck and Coverのポーズを整然ととれるものだろうか。

 また、New York Timesが報道記事で「滑稽」だなどとして他国民の行動を評するだろうか。引用や論評記事ならひょっとすると……という気がしないでもないが、ただの報道記事であるならそれはないんぢゃないかなぁ、ってなあたりも気になってくる。

 さらに自分にとっては決定的だったのだけれど、この写真、北朝鮮のミサイル騒ぎとは別の折に見たような記憶がある。石川県輪島市で行われた、北朝鮮ミサイルに備えての演習の模様だ*2。で、テケトーにググって行き着いたのが、ミサイル発射の翌日、8月30日の報道「ミサイル飛来想定 住民が避難訓練 輪島市」(日テレNEWS24)hatebu

 これ。このお三方は、「避難訓練:ミサイル想定、県内初 住民ら283人が参加 輪島 /石川」(毎日新聞)hatebuの写真、「石川・輪島市で“北ミサイル発射”避難訓練」(TBS NEWS)hatebuのヴィデオにもご登場。さらに、「JJオモロイ on Twitter: "これの2枚目のやつかも。ミサイル発射の翌日(30日)に輪島市で実施された避難訓練。 https://t.co/kdypArqJ6x https://t.co/wlI9wHV6Vz"」hatebu、というわけで、「弾道ミサイル発射想定の避難訓練 石川 輪島」(NHKニュース)hatebuにある写真も、おそらくは同じ場所同じ建物内で撮られたものみたいに見える。こうなってくると、件の写真はミサイルが発射された4分後ではなく、一日後のものぢゃないかと思えてくる。もちろん、理屈としてはミサイルが飛んだ日の写真を翌日のものとして日本の「マスゴミども」が使っている可能性はないでもないのかもしれないけれど、まず「4分後」のほうを疑わしいと見るのが穏当な見方だろう。

 つまり、件の写真は、たぶん北朝鮮のミサイル発射4分後ではなく1日後のもの。もしNYTが件の写真を本当に4分後日本人がとった滑稽な行動として報じていたのなら、それはチョンボ、fake news ということになるんぢゃないか。

 

 そこで、Googleの画像検索を使って、写真が本当にNYTに掲載されているものかを調べてみると、「North Korea, Texas, Japan: Your Wednesday Briefing」(The New York Times)hatebuに行き当たる。「水曜日のブリーフィング」のトップに件の写真はたしかに掲載されている。ただし、写真にはキャプションらしいキャプションはない。「Jiji Press/Agence France-Presse — Getty Images」と、写真の出処が付されているだけだ。さらに本文を読んでみると、写真に写された行動を「日本国民のとった滑稽な行動」だとする表現が見当たらない。このへんは僕の英語力が足りない可能性だってあるけれど\(^o^)/、とりあえずそのことには知らぬフリをするとして、では冒頭に掲げた tweet中の文言はどこから湧いてきたのか。

 さらにググって行き着くのが「ニューヨークタイムズが日本のイカレタ風景を報道。「(彼らにふさわしく)『平和憲法』を再考するか」」(のんきに介護)hatebuと、この記事を転載した★阿修羅♪hatebu。これを読むと、あぁ、なるほどそういうことかぁ、となる。

ミサイル発射4分後、日本国民が取った、
滑稽な
行動につき、
ニューヨークタイムズが報じた
画像を紹介する。

 記事冒頭からの引用だ。この部分の「ミサイル発射4分後、日本国民が取った、滑稽な行動」という言葉はこれより以前には遡れないみたいだ。この部分は「のんきに介護」の書き手さんの解釈であって、NYT記事からの引用ではないと読める。写真の後に続く文言も書き手さんの解釈が主体になっていてNYT記事からの直接の引用は一箇所のみだ。しかもその一箇所も

「And Japanese citizens, some of whom received a beeping alert on their cellphones just four minutes after the projectile was fired, may be rethinking support for their pacifist Constitution.(発射4分後、携帯電話で警告音を鳴らした日本人は、彼らの平和憲法の支持を再考するかもしれない。)」

とあるだけで、写真の行動について語るものにはなっていない。

ついでに、ここで写真の転載元とされている

には、ご覧の通り、写真がどのようにNYTに捉えられたかについての言及はない。こちらは「のんきに介護」とは異なり、NYTの捉え方を「大きなお世話だ」と難じている。

 とすると、ここからは僕の想像になるのだけれど、冒頭に掲げた tweetの書き手さんがおそらく「のんきに介護」もしくは★阿修羅♪の記事を目にし、記事冒頭の文言をNYTの記事中の言葉だと受け止めてしまったということなんぢゃないだろうか。

 というわけで、NYTの記事がミサイル発射一日後の写真を4分後のものとして掲載したわけでもなければ、冒頭の tweetsがNYTの記事内容を捏造した*3わけでもなかった、ええとどうまとめますかね、「のんきに介護」の書き手さんの熱の籠もった文章に対する勘違いから、いろいろゴチャゴチャしちゃったというある種の伝言ゲーム的な事態が起こっていたというふうになりますかね。

 僕自身仕出かしかねない勘違いの類だから、あんまりヒトを責める気分にはなれないけれど、ヒトが神経質になる話題を扱うときには少々普段よりはソースに気をつけるってあたり、教訓としておきますかね。

 

五分後の世界 (幻冬舎文庫)

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