本日の備忘録/疑似相関の彼方へ、

 疑似相関のお話。動画再生中の画面にポインタをかざすと画面右下に現れる歯車アイコンからアレコレいぢるとヒトの手になる日本語字幕も利用できる。

 登壇者は、オランダのサイエンスライターさん。僕自身はこのTED講演でしか知らないのだけれど、どなたであるにせよ、お話は標準的なもの。「疑似相関」を、もし知らなかったのであれば、これを機会に知っておいて損はございませんわね。

 

親の所得と子どもの学力の関係は……

 今回の本題はこちら。疑似相関を疑ってみることは大事だけれど、親の収入と子どもの学力に見られる相関関係は、疑似ぢゃないみたいよ、というお話。

……アメリカでは、(略)子どもの成長に対する所得のみの影響(「所得効果」と呼ぶ)を検証する研究が多く存在する。つまり、同じ地域において、たくさんの被験者を募り、その中から無作為に半数を選ぶ。そして、その対象グループには毎月〇〇ドルといった所得保障を行い、残りの半数のコントロール・グループには何も行わない。そして、数か月から数年後に二つのグループの子どもたちの成績、学歴達成などがどのように変化したかを見るのである。もし、対象グループの子どもたちだけが、成績が上がり、コントロール・グループでは上がらなければ、所得のみの影響、つまり所得効果が存在するということになる。

 このような手法を使った研究のほぼ一致した結果は、所得効果は存在するということである。たとえば、クラーク - カフマンらは、0歳から15歳*1までの子どもを対象とした14の実験プログラムの対象グループとコントロール・グループを比較している(Clark-Kauffman et al. 2003)*2。プログラムは、単純な現金給付のものから、現金給付に加えて(親の)就労支援プログラムを行うもの、就労支援プログラムのみが提供されるものなど、さまざまである。その結果、潤沢な現金給付のプログラムであれば0~5歳児の成長(プログラムに参加してから2年から5年の間に測定される学力テストや教師による評価)にプラスの影響を与えるものの、現金給付がないプログラム(サービスのみのプログラム)や現金給付が充分な額ではないプログラムでは影響は見られなかったと報告している。つまり、所得の上昇だけによって、子どもの学力は向上したのである。

阿部 彩『子どもの貧困』(岩波新書、2008年)pp. 34-5

 

疑似相関ぢゃないかと疑うこと自体は悪くないのだけれど……

 さすがに今では、子どもが置かれている経済的な環境によって学力が大きく左右されるという話そのものは広く知られているかもしれない。けれど、世間様一般はさておき、それが話半分に受け止められていることも身近ではそれなりにあるみたいに見える。たぶん、話がなされる折に示される、家庭の経済状態と子どもの学力の関係を示すデータと称されるものには疑似相関である可能性を排除できないものが結構あるからぢゃないかしら。縦軸がテストの点数で横軸が親の年収になっているグラフみたいなヤツ。親の年収があればあるほど子どもの成績も上昇する……こういうデータだけであれば、たとえば年収は親の頭の良さに由来するものであって、収入が直接子どもの学力を左右しているわけではなく、親からの遺伝的要因のおかげで学力があるのだ(という可能性を排除できない)と考えることだって出来る(かもしれない)。そういう疑いの目を以てデータを見ること自体は全然悪くない。というかむしろあって然るべき見方だ。ただ「可能性を排除できない」ことを以て、経済的環境が子どもの学力を左右するという主張を論駁し尽くしたことにはできないということは忘れちゃダメよね。

 と、そんなこんなで、こと親の所得と子どもの学力の間には、疑似的とはいえないまともな相関関係があると見たほうが良さそうだと頭にとめておいていいみたいだ。

 

 もちろん、引用元が2008年のものであることを考えれば、さらに新しい研究調査の類があるのかどうか、あったとしてどういう結果が出ているのかも気になるところ。そこいらへん、今のところ決定的な否定になるようなものはないんぢゃないかなぁ。といっても、不勉強なアテクシのいうことだから信用できないんだけどさぁ\(^o^)/

 

※ エントリ・タイトル、毎度デタラメで相済みませんm(_ _)m

 IIは2014年の刊行。前著の主張を前提にさらに細かな検討を加え、「解決策を考える」ものになっている。親の所得と子どもの学力については、本書の比較的早い段階で以下のように語られる。

 教育学においては、親の所得と子どもの学力がきれいな比例の関係にあることが実証されており(略)、さらには、とくに経済的困難を抱えている生活保護受給世帯に育つ子どもたちや、児童養護施設に育つ子どもたちの、極端な学力不足が報告されている。極端な学力不足とは、中学、高校の段階の子どもたちにおいて、小学校低学年で習得しているはずである九九や簡単な算数ができないというような状況である(略)。かつて日本は、世界の中でも教育レベルが高いと信じられてきた。しかし21世紀に入った現代日本において、義務教育で当然のごとく身につけるはずである基礎的な学力さえも取得できない子どもが増えている。

pp.14-5

ってことは、著者さんを信用するかぎり、先に取り上げた引用で示されていたような調査研究に決定的な批判はなかったんだろうと考えるほうが自然だよね、たぶん。

 

 とくに第一部。筋の通った思考のために留意しておきたいことどもアレコレ。

 「学校では教えてくれない」と来ると、どうも昨今では怪しい本の売り文句という感じだけれど、こちらはそんなこたぁございません。

 

*1:【引用者註】原文縦書き漢数字。以下同様。

*2:【受験生向け引用者註】「et al.」は「その他(のヒト)」の意味。つまりここでは、直前に「クラーク - カフマンら」とあった末尾の「ら」に当たるって感じ。