形容詞もそうだけれど、引用だって要注意

 「When a writer can't find the nuance」(Manage Your Writing)*1で、先日亡くなった小説家ノーマン・メイラー(Norman Mailer)の言葉が紹介されている。

When a writer can't find the nuance of an experience, he usually loads up with adjectives.

 修飾語句の濫用はつとに戒められてきた。でも、形容濫用の問題をテクニックの問題に帰していないところが、さすが作家さんなんだろう。形容詞を使うな、というのではなく、書き手がだめんなっちゃうと形容詞の詰め込みをおっぱじめるもんなんだ、というのだから(僕に英語がちゃんと読めてるかどうかはちと不安だけど。勘違いがあれば優しくご教示賜れますように)。

 ところが、エントリの書き手さんは、

Mailer advises well. I overuse adjectives, so his words chastise me. When you next revise something, honor Mailer's memory by looking for ways to replace adjectives, as I tried to do in this post.

なんて云っている。これはメイラーの云い分の正しい受け止め方なんだろうか?

 風邪をひけば鼻水が出る。だからといって、鼻水流出を防ぐべく鼻に栓をしたって、風邪が治るわけは当然ない。息が苦しくなるだけだもん。書き手が経験の肌理に鈍感になって作中に形容詞がむやみに増える。だからといって形容詞を減らしてみて、そこに出来するものって何なのだろう。単に形容詞が少ないだけの空疎な文章だけなのかもよ。形容詞の数を減らしたからって、別に経験のニュアンスがバリバリ見えてくるってわけでもないだろう。もしメイラーの言葉をまじめに受け止めるんなら、形容詞を他の表現で置き換えることよりも先にやるべきことがあるんじゃないかしら。

 

教訓

 気が利いているって感じの言葉は、どうしたって利用したくなる。その時々の話題にも関係するとなればなおさら。でも気の利いた言葉ってカッコいいやつほど意外な棘や迷路を含んでいるものだ。利用する場合にはそれなりの注意が必要だってことになりゃしないかな。

 

 うーん。いやしかし書いてみると、過去、自分の書いたあれこれ、わからんちんなまんま引用した言葉の数々を思い出して、小っ恥ずかしくなって来もする話題だわいな。はれほれ。

 

おまけ

 上記エントリとは何の関係もないけれど……。

ワインバーグの文章読本

ワインバーグの文章読本

 

 11月20日発売だそうだ。洋物の文章術本って、翻訳のせいなのか扱う言葉の違いのせいなのかわからないけれど、どうも当たり外れが大きいって感じ。でも、ワインバーグものとなると、これは気になるなぁ。今どうにもこうにもどん底金欠なので速攻で購入というわけには参らないのだけれど、20日は書店で立ち読みでもしてみるべし*2

*1:【復旧時註】すでにリンク切れ。

*2:【復旧時註】結局買っちゃった。ただの書き方論ではなくて、生活習慣のありようから文章の構築方法を考え直すという観点がいい。既存の文章読本類ではなかなか見かけないけれど、考えてみれば当然なくちゃいけない見方だわね。