白黒テレビ

2010年8月広尾

2010年8月、広尾

 昼、うつらうつらと見た夢の断片。

 たぶん、子供時代の茶の間の白黒TV受像機。チャンネルのつまみとヴォリュームのつまみの出っ張りと凹凸が目にやけにありありと感じられる。画面には「しばらくお待ちください」という言葉とともに、女性が一輪の花を持った画像が映っている。

 その画面からなのか、それとも背後からなのか、ざわざわとヒトが言葉を交し合う小声が聞こえてくる。あぁ、その何人ものヒトの声の中に、間違いなく*****の少し高い声が混じっているのがわかる。どんな言葉を口にしているのかはわからない。でも、声のタイミングに注意していると、どうも誰かと言葉を交わしているのではなく、独りで何かを喋っているのではないだろうか。一体何を話しているのか、聴き取りたい、聴き取りたい、いやこれは是非にも聴き取らなければならない言葉なのだという確信が湧いてくるのだが、耳を澄まそうとするその都度、ドドドッと機械音が響いて邪魔をする。――あ、お、い、あ、お、あ。あ、お、い、あ、お、あ」と母音は何となく聞こえてくるようなのだが、子音が聴き取れない。もうほんの少し大きな声で話してくれれば、あるいはいっそ振り返れば、ヒトたちの輪の中に自分も入れるのではと感じもするのだが、声は小声のまま、自分の躰もピクリとも動かない。あぁ、もう少し、もうほんの少し大きな声で……。

 

 ヘリコプターの爆音で目が覚めた。とてつもなく悲しい気分がずるずると躰にまとわりついて、不愉快だった。

 

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