立ち騒ぐ、鳥獣たちの手紙

20100219230716

 例によって直前まで何をしていたのかは記憶にない。

 どういうわけでそうなのか、薄暗い広がりの中に立っていたようだ*1

 周囲にヒトの気配はあるが姿は見えない。カサコソと紙のこすれ合うような音がする。別々の二つの方向から――上下右左、東西南北どう表していいのかわからないのだが――、とにかく異なった光が見える。そのぼんやりした光源の一方に、輪郭のはっきりしない、何か机に向かってものを書いているヒトなのだろうか、機械的ではない動く影が見える。

――あぁ、そうだ、さっさと書き上げてしまわなければ。

 書きかけたままになっているJ.M.宛ての手紙のことを思い出して、さて、どんな文面で書き始めたのだったかが、どうもうまく思い出せない。伝えなければならないのは、事務的な案件に過ぎなかったはず。しかし、ずいぶん大袈裟な書き出しになってしまったことが気になっていたのだ。大袈裟なら覚えていていいはずなのに、それがいっかな思い出せないのだ。不必要に気取ってしまうのは良くないことだと、大袈裟な言葉を綴っていた最中にも考えていたような覚えがあるというのに。その表現の中に含まれていたものなのだろうか、いくつかの断片的な映像が思い浮かぶ。どこのだったか、動物園で見たハイエナ(?)、津田沼の駅前で見上げたムクドリの群れ……そういう獣や鳥たちを、私は一体どういうつもりで表現に織り込んだのだろう。思い出そうとすればするほど、頭の中で鳥獣たちの激しく動きまわり、気が遠くなるような気分になる。

 ふと気づくと目の前には、小学生時代に使っていた薄茶色に塗装された学習机があり、その上には便箋が広げられている。ずいぶん以前になくしたはずの、叔父からもらった万年筆もその脇には置かれていて、そうだ、そんな大袈裟な言葉遣いのことなどで考えあぐねるより、また最初から書けば良いだけのことではないか、と考え直し、たぶん立ったままペンを執る。けれど、ハイエナ、ムクドリ、オオナマケモノ、スズメ、タカアシガニペルシャネコ、アオウミガメ、ハシブトガラスコモドオオトカゲ、ホウキムシ……頭の中の鳥獣たちのヴィジョンがいっそう騒がしく、どんな言葉も思い浮かばなくなってしまう。あぁ、これではY.H.にも申し訳が立たないし、S.H.にはまた会ってもらえないだろう。困った、困った、どうにかこいつらをなだすかさなければ、宥め賺さなければ……。けれど、騒ぎは収まる気配さえなく、苛々ばかりが亢進してゆく。

――あぁ、さっき見えた影は、こうやって書きあぐねていた自分の影なんだな、そうか、そうに違いない。 と、ヘタなオチにもならないわけのわからないことに思い至るのだが……
 そこから後はまったく記憶にない。しかしなぁ、初夢だろうがなんだろうが、どうしてこうも不能感に満ちた夢ばかり見るものなんだろう。新年早々まいりますな\(^o^)/。さぞかし今年も碌でもない一年になるってことなんだろうか。いやはや。

夢 (書物の王国)

夢 (書物の王国)

 

 宮部みゆきから、ボルヘスフランツ・カフカまで。

 

*1:本当はどのような姿勢でそこにいたのかよく思い出せないのだが、一番辻褄が合っていそうに思える。