1965年のタッピング

 話題になったのは昨年のことみたいなのだけれど……。

 タッピング奏法の発案者がだれであるのかは、実は全然はっきりしておらず、ヴァン・ヘイレンがどうしたこうしたというような次元の話ではもとよりなくて、このヴィデオのギタリストさんが開発者だというわけでもないのだけれど、ギターで実際にタッピング奏法でプレイされている60年代半ばの映像というのは、たぶんすんごく珍しいものではないかしら。というわけでメモ。

 残念なことに公開した方の YouTubeページはもとより Facebookページにも、このヴィデオそのものについての情報は出ていない。イタリア語もわかんないしなぁ。「タッピング奏法」に関するウィキpの記述もただの物知り自慢合戦みたいな記述になっちゃっていて、参照するに足りないしなぁ*1。仕方なく英語版のウィキpに当たってみると、

The two-handed tapping technique was also known and occasionally used by many 1950s and 1960s jazz guitarists such as Barney Kessel, who was an early supporter of Emmett Chapman. Vittorio Camardese, an Italian radiologist, developed his own two-handed tapping in the early 1960s, and demonstrated it in 1965 during an Italian TV show.

Tapping - Wikipedia, the free encyclopedia はてなブックマーク - Tapping - Wikipedia, the free encyclopedia*2

という記述に出喰わす。あのギタリストさんなのかな、 Vittorio Camardeseって? 読み方の見当がイマイチわかりませんけど、ヴィットリオ・キャマルデスとか何とか読むのかしら。独立した項目はないものの、引用部分の末尾にあった脚注から、

Vittorio Camardese ospite a "Chitarra Amore Mio" (RAI-1965) LA NASCITA DEL TAPPING - YouTube

っと、冒頭のと同じ内容のヴィデオへのリンクがあった。というわけで、間違いなく Vittorio Camardeseが冒頭のギタリストさんということになりそうだ。さらに、Vittorio Camardeseでググっていたら、

なんて、彼の映画を撮ろうというプロジェクトなんかもあるのね。クラウドファンディングで、というこのプロジェクト「The unknown genius of guitar. The story of Vittorio Camardese, Doctor Tapping」(Indiegogo) はてなブックマーク - The unknown genius of guitar. The story of Vittorio Camardese, Doctor Tapping | Indiegogo、今年6月に立ち上げたものらしいけれど、目標の、まだ 8%の額しか資金は集まってないみたいだ。集まらないまま現在は「CAMPAIGN CLOSED」状態。ネット上での Vittorio Camardeseのヴィデオの広まり具合からすると、ずいぶん情けない状態だなぁ。うーん。

 というのはとりあえずさておき、このページがこの Vittorio Camardeseというギタリストさんについて最も詳しい文献だってことみたいだ。毎度ながら、まだちゃんと読んでないんだけれど(^_^;)。

 しかしなぁ、こういう単独で今日に通じるようなテクニックを生み出しても、それが受け継がれなければ、Vittorio Camardeseのように埋もれるばかりなのだな。生命の系統樹のどん詰まり。なぜ同時代のヒトビトは彼の奏法を拾い上げることが出来なかったのか、と『炎の人』のラストよろしくしかつめらしい顔をして問うことができないわけでもないか。

 で、答えは、問うほどのことでもないような話になっていて、ヒトは革新的な新しさには割と冷淡なところがある、という時代を問わないいつものことなんだろう。Michael Hedgesを聴き始めた頃にも「そんなブルースを経由しないようなギタリストは信用できないよね」みたいな話するギター弾きさんはいたし、押尾コータローが登場したときにも曲芸的キワモノみたいに扱う「ファン」のヒトがゐるのも目にした。そんなもんなのかなぁ、人類ってぇのは。

 まずは、目新しいモノにどうしても心惹かれてしまうガキんちょが一定数周囲にいなければならない。Michael Hedgesが今みたいに、ある程度当たり前みたいに語れる名前になったのは、やっと没後、今世紀に入ってから、ここしばらくのアコースティックギターブームのおかげさまというところだろう。彼がゴッホみたいに生前不遇だったというわけではないけれど、少なくとも日本では今ほどの知名度を獲得するまでにはずいぶん時間がかかっている。1984年の『Aerial Boundaries』から数えて30年かかった勘定か。仮にアコースティックギターのタッピングが Vittorio Camardeseに端を発するものだとするなら*3半世紀。本当に突出した革新が広がり社会に受け容れられ文化に育ってゆくにはそれくらいの時間がかかるということなんだろうか。うーん。まぁよくわかりませんな\(^o^)/。

 

Aerial Boundaries

Aerial Boundaries

 

しつこいですけれど、これはお聴きになったほうがいい。

20140805111004

と、ここしばらくまたMichael Hedgesを聴き返しながら何度唸ったことか。

*1:cf. タッピング奏法 - Wikipedia はてなブックマーク - タッピング奏法 - Wikipedia。どの項目もひどいが「歴史」の項目はほとんど歴史の説明になっとらん。段落の整理もまったく話にならない水準。ほとんど意味のないシロモノになっちょる。ぶー。英語版のほうが英語であるにもかかわらず日本語版よりまともな整理がいくらか出来ている分、読みやすいくらいだ。

*2: 2014年8月5日参照。

*3: 僕自身は確認していないけれど、ジャズだとどういう種類のギターかはよくわかんないんだけれど、50年代にはちょこちょこ使われたことがあったみたいだし、他の楽器だとパガニーニがヴァイオリンでやらかしていたというような話もあるみたい。ネットで確認できる範囲では、今のところウクレレによる1933(or 32?)年の Roy Smeckによるタッピングの映像が一番古いのかなぁ。cf. Roy Smeck - YouTube はてなブックマーク - Roy Smeck - YouTube 。映画『Club House Party』の一場面。同じ映画の中で彼はスライドギターも弾いている。cf. Roy Smeck Little Grass Shack - YouTube はてなブックマーク - Roy Smeck Little Grass Shack - YouTubeウクレレで試みていたのなら、当然ギターにだって応用していておかしくないように思えるのだが、そういう映像や記述には出喰わすことは今のところない。/僕は Roy Smeckのことを今まで全然知らなかったが、有名なヒトらしい。インタヴューを交えた構成映像なんかもある。cf. Roy Smeck: The Wizard of the Strings - YouTube はてなブックマーク - Roy Smeck: The Wizard of the Strings - YouTube